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484. 厄落とし
飯田の要望に答えてくれた静香が愛おしくて堪らなかった。
「ごめんな。生理痛のように痛いのに…
俺だけ気持ち良くなって…」
「ううん。お薬も飲んだから、もう、ほとんど子宮は痛くないわ。
少し、生理のように出血があるだけよ。
ただ、無理をすると二度と生めない身体になるから…
お休みくれてありがとう。」
飯田は静香の肩を抱いて
「ん。少し休んで、元の静香の体に戻ってくれよな。
静香の誕生日に一緒に祝いたかったけど…
休みをあげるのが一番のプレゼントだと思ったからさ。」
「ううん。尚ちゃんには、素敵なイヤリングを貰ったわ。
本当にありがとう♪」
静香はイヤリングを付けて、飯田に見せた。
「うん。可愛いよ。ハートの形がラブリーだよな♪
来年は婚約指輪をあげたいな。
それまでに、お袋さん。良くなるといいな。」
「うん…。そうね。そう信じたい!」
5年後のすい臓癌の生存率は10%もなかった…
そう、本に書いてあった。
主治医が結構癌が大きかったと言っていた。
静香は口に出すことはなかったが、覚悟もしないといけないと思ってもいた。
もうすぐ、32歳。厄年の真っ只中だ。
良い予感はしない年だ。
ああ。だから、流産したんだ…
お母さんの病気も…
やっぱり、前厄だからかな?
尚ちゃんとの結婚は厄が終わってから…
そんな事が頭によぎった。
「静香?どうした?」
「え?ううん。もうすぐ32歳なんだ。
本厄なんだよね?って思ったの。」
「ああ。そうか。だから、事故とか、お袋さんの入院とか、今回の事とか、あったんだな。
でも、あまり深く考えない方がいいぞ。
これで、厄を落とした!
って思って過ごした方がいい。
そうだ。今度、厄落としにお参りに行こう!
今度の日曜日はどうだ?
お袋さんが、入院してる内に行ってきた方がいいだろう?」
「そうね。退院はその週の火曜日なの。
大安だからなんですって。
だから、月曜日はお店に出るけど、次の日は又お休みを貰いたいの。」
「うん。わかった。お袋に言っておくよ。
後、1週間は頑張って出てくれってな。
まあ、お袋は週3だから、親父も入院中だし、張り切っているけどな(笑)
親父はかなりリハビリしないとトイレにも行けない体になってるからな。
半年は入院のようだ。
なんか、この頃親父が居ない方が気が楽なのかルンルンしてるよ。
週4日も休みだからな。
美容院にも行けるし、カラオケも出来るし、この頃カラオケ仲間の
奥さん連中とランチ会までして、楽しんいるようだよ(笑)」
「いいんじゃない?
花の50代だもの。今、人生楽しまなかったら、なんの為の人生かわからなくなるわ。」
「まあ。そうだけどさ。
今度、親父が退院して家に帰ってくると、また、ため息しながら俺に愚痴るのかと思うと、憂鬱になるけどな。」
「尚ちゃんのお父さんも私のお母さんも、退院後が大変ね。」
「ああ。とにかく、親孝行しないとな。
お互い長男、長女だから何かと気苦労するよな!
俺達は仲睦まじしく、お互いを思いやって生活していこうな♪」
「うん。そうね。どちらも大事な親だもんね♪」
飯田は優しく口付けをすると、
「今度会うのは、日曜日な。厄落としに行こうな。」
「ええ。わかったわ。
それじゃ、待ち合わせ場所は病院の駐車場にしましょう♪」
「おう♪メール待ってるよ♪」
飯田は微笑むと、そっと玄関のドアを開いた。
そろそろ午前様だ。
飯田は手を振って静かにドアを閉めた。
次の朝。
「おはよう♪お母さん?
お腹の痛いのは治った?」
憲一が1人で起きて、台所にいた静香の顔を覗くように、静香に言った。
「おはよう♪うん。もう、大丈夫よ。」
「良かった~。みよばあが入院してるのに、お母さんまで入院したらどうしようと思っていたの。
あ。そうそう。お父さんからさっきメールがあってね。
『今度のみよばあが退院するとき帰るよ』
ってさ。ねえ?お母さん?僕達、みよばあが退院したら一緒に住むの?」
「お父さんが火曜日に会社を休んで来てくれるんだ。
そうね。色々相談することもあるしね。
ええ。みよばあが退院したら、みよばあのお家で3人で生活しようと思うのよ。
みよばあがちゃんと1人でも大丈夫になるまでね。
憲一は学校が近くなるから良かったでしょ?」
「うん。みよばあの家はここより広いから、僕のお部屋もくれるよね?」
「そうね。妹の美咲が使っていた部屋を憲一の部屋にするといいわね。」
「やった~♪あそこの部屋はソファーもあるし、ベッドも僕のベッドより大きいし、明るくていいなあって思っていたんだ。」
美咲の部屋は洋室で12畳もある部屋だ。
元々私の部屋だったが、受験勉強するために、妹と私の部屋を交換したのだった。
私は6畳の和室でも満足だった。
部屋を交換したのは私が社会人になってからだったから。
寝に帰る部屋があれば充分だったのだ。
私が19歳の時、妹は13歳。
飯田と同じ年なんだなと思うと、年の差を感じる静香だった。
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