487. 母親の退院

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487. 母親の退院

母親の退院の日になった。 昨日、3時に母親と静香は診療室に呼ばれた。 先生はパソコンの写真を見ながら 「癌は綺麗に取り除かれています。 この後、しばらくお薬を飲んで様子を見ます。 放射線治療や抗がん治療はやりません。 看護師が説明したと思いますが、退院後は軽い運動、消化の良い食事を心掛けてください。 初めの1年間は毎月血液検査をします。 退院して、1ヶ月後に来て下さい。 予約しておきます。 その前にどうしても食べられなかったり、下痢が止まらなかったりしたときは、直ぐに来て下さいね。 関根さんは心配症なところが見受けられますから、メガティブな考えに固まらないことですよ。 癌は無くなった。 もう、大丈夫と言い聞かせて毎日を楽しく過ごしてくださいね。」 それが、母親にあてた主治医の言葉だった。 母親が先に診療室を出た後、主治医が静香に 「お母さんに首や脇の下といったリンパ節が多いところに“しこり”が出来たらすぐに検査に来て下さいね。 悪性リンパ腫の可能性が血液検査の結果で微量ですが、出ています。 疑いまでには至らないので、本人には、今回は伝えません。 ただ、娘さんには伝えておきます。」 そう、主治医は言葉にした。 静香は頷いて、診療室を後にした。 『もしかしたら、悪性リンパ腫の可能性があるってこと? 母親に限って…もう大丈夫よ! 悪いところは全部切ったんだもの! 微量の血液検査は祈願前の事だから! 厄落とししてきたんだもの。 絶対に健康になるんだから!』 静香は自分に言い聞かせて、実家に帰っていった。 実家にシルバー人材の人が草刈りをしてくれたのだ。 静香は母親が庭を見て安心するように庭を綺麗に掃いた。 そして、今朝は憲一を学校に送り出すと、実家に行って雨戸を開けて、掃除をして、とりあえず一週間の憲一と静香の衣類一式をタンスに入れた。 「これでよし!あ。よっちゃんは…今夜は泊まって行くのかな? …そのときは、今までの家で寝てもらおうかな? なんか、変な感じかな? これじゃ、まるで離婚して、実家に帰って来た私達親子だわね(笑) 未来の現実みたいだわね。」 そんな事を思いながら、病院に向かった。 「お母さん♪おはよう! あら?全て荷物はまとめてあるのね! それじゃ、車に荷物を運ぶね。」 「ええ。お願いするわ。」 静香が駐車場に歩いて行くと、 背中からクラクションの音がした。 静香が車に目をやると、旦那がよしばあを助手席に乗せて、来てくれたのだった。 助手席のドアの窓が下がり、 「みよさんは元気になったんか?」 「あ。お義母さん。はい! 先生も飲み薬だけでいいって言われたの。 来てくれてありがとうございます。」 すると、旦那が 「荷物を後ろに置きなよ。駐車場までその荷物じゃ大変だよ!」 「え?あ。ありがとう。」 静香は荷物を旦那の車の後部座席に置いた。 車を駐車場に入れると、3人は病室に向かった。 「よしさんに退院祝いに、帰りに昼飯食べて行こうと思うんだけんと、何を食べるかのう?」 「お義母さん。ありがとう。 母親は多分、雑炊とかお魚も煮魚とかかな? お肉は消化が悪いから…お肉は煮込んだビーフシチューみたいのしか食べられないかも💦」 「そっか。それじゃ、自宅近くの割烹料理屋にすっか? あそこの雑炊旨いべ! 美味しい煮魚もあるしな。 そうするべよ♪な!」 「そうね。そこなら、お母さんも喜ぶわね♪」 そんな事を相談しながら、病院の自動ドアが開いた。 会計の前に母親が座っていた。 「静香。よっちゃん。よしさん!」 笑顔で母親が私達を見つけた。 会計を済ませると、さっきの割烹料理屋に行くことを母親に告げた。 母親は笑顔で了承した。 学校の反対の道を行くとある割烹料理店。 地区の集まりの時に良く使うお店だ。 もちろん、オーナーも静香達の顔は知っている。 多分、母親が入院していたことも知っているかも知れない。 でも、あえて割烹料理店のおかみさんはその話に触れずに、美味しい料理を出してくれた。 そっと、義母が頼んだのかも知れない。 母親のお膳には消化の良い料理が並んでいた。 「何を食べても美味しいわ。 なんか、やっとシャバに出たって感じだわ(笑)」 「そりゃ良かった〰️。 何も食べられなかったら、退院祝い出来ないと思って…予約してないんよ。 こんだけ、料理が出て来て、嬉しい限りだな♪」 「よしさん。ありがとう。 消化の良い料理がおいしく並んでいるから、全部食べられそうよ。」 「足らなかったら追加すっから、言ってくれよ?」 「もう、お腹いっぱいよ(笑) ありがとうございます。」 母親も義母も笑顔で会話が出来て、本当に良かったと思った。
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