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470. 飯田が退院
それから、2日後、飯田は退院した。
『お袋に、リハビリをお店でおかずを作る練習をして、感覚を元に戻すと言ったら賛成してくれたよ』
『良かったわね。自転車買ったの?』
『原チャリを中古で買った。守が何処からか調達してきてくれた。持つものは友だと思ったよ』
『良かったわね。それじゃ、明日からお店でリハビリ?』
『いや。お見舞いに来てくれた友人の所に退院祝の品を持って挨拶に行くよ。静香と加奈さんにもあるから加奈さんの借家に静香も来てくれる?』
『わかったわ。いつ?』
『明日の3時に加奈さんの借家でいいかな?
もう、加奈さんには了承済みだ。
それでさ。リハビリをお店でする事を加奈さんには絶対に言わないでほしいんだ』
『わかった』
『なんとなくだけど、店にようす見に来そうだろ?』
『そうね。でも、後で知ったら水くさいと私が怒られるわね』
『だからあえてお店には4時にしよう。夜の仕事する前は加奈さんは忙しくて来れないだろ?』
『そうね。わかったわ。違うバイト見つかったって母親には言っとくわ』
『ん。お互いばれないようにしないとな』
『そうね』
『明日、静香の誕生日だろ?
加奈さんの借家に行った後、俺が先に帰るから後から俺の店に来てくれる?』
『わかったわ』
そんなメールで約束をした。
次の日、白石の所に遊びに行くと言って静香は家を出た。
静香が白石の借家に着くと、白石がホテルの裏庭の焼却炉でゴミを燃やしていた。
「加奈さん?お掃除でもしていたの?」
「ああ。ホテルのおかみさんに頼まれてな。
チーフから連絡あったのか?」
「うん。なんかお見舞いのお礼したいって。
でも、車乗れないから加奈さんの所まで来てくれるか?って言われたの。」
「ああ。聞いたよ。ここいら辺は車が乗れないと不便だよな。
バイクで来るって言ってたけど…
バイクの方がグリップ握るから危なくないか?
ちょっと心配だよな?」
「そうよね。考えてみれば車はハンドル握っていればいいし、道を曲がる時は左手だけでも出来るしね?
もしかしたら、まさか医師は家で1ヶ月はおとなしくしていなさいって事だったのかな?💦」
「だと思うよ?先生は車はダメだけどバイクはいいなんて言ってないと思うんだよな!
まあ、チーフの事だから…
私と同じで大人しくしているわけないけどさ。
血は争えないかな(笑)」
チーフを思って笑う白石の横顔を見て、今さらだけど、飯田にそっくりだと静香は思った。
バイクのエンジンの音が表の駐車場から耳に入った2人だった。
「お!来たね♪」
「やあ。お二人さん!外で待っていてくれたの?」
飯田が原チャリでやってきた。
「どうだ? 娑婆世界はいいだろ?(笑)」
「ああ!凄くいいよ♪
しかし、なんだな。ここの3人は今年入院経験者だな(笑)」
「ハハハ。本当にそうだな。
どうぞ。中に入ってくれるか?」
「ありがとう。」
飯田と静香はホテルの裏玄関から白石の借家に入って行った。
飯田はお見舞いのお返しの掛け布団と敷き布団のシーツのセットを持参した。
「加奈さん。これ、お見舞いのお返しだよ。ありふれた物だけど…」
西武百貨店の包み紙だった。
「すみません。気を遣わせて。
お見舞いのお返しってするもんなんだな。
私はママに貰ったけど、お返ししてないや…」
「加奈さん?お店のママならお返し無しでいいんだよ?
経営者と従業員の間なんだからさ。気にすることはないよ。
俺の場合は反対だろ?
だからさ。お袋も義理固い人間だしさ。
まあ、ただのシーツだからさ。邪魔にはならないだろ?」
「ああ。ちょうど、夏布団に取り替えたから、欲しかったんだ♪
ありがとう。」
「あ。岡野さんには出たときに渡すね。」
「あ。すみません。ありがとう。」
「チーフはドクターペッパーだったのな?」
「ああ。あるの?」
「うん。買っておいたよ。
静香はCCレモンだよな?」
「ええ。ありがとう。覚えておいてくれたの?」
「ああ。入院中、良く飲んでたろ?」
「そうね。炭酸はスカッとしていいのよ♪
加奈さんはブラックコーヒーよね?」
「うん。一番好きだ。甘くなくてな。
多分、甘味料が入った飲み物は飲まないかな?」
そういって、別々の種類の飲み物をテーブルに置いた。
「チーフ。退院おめでとう♪」
白石が飲み物の蓋を開けて、乾杯の真似をした。
「お!ありがとう♪何かビールを飲みたい気分だけどな。
察に捕まったら元もこもないからな(笑)」
「駄目だよ。昔と今は違うんだからな!」
「そうだな。今度、リハビリ頑張って元に戻ったら、お店のオープンの前に再オープン祝いをやろうか!
その時は加奈さんも夜はラウンジ休んでくれよな?」
「もちろんだよ♪早くオープンするの待ってるから♪
リハビリ頑張って右手を元に戻してくれよな♪」
「おう!ありがとう♪」
飲み物を飲み終えると、静香と飯田は白石の借家を出た。
白石も外に出て見送った。
静香は飯田からお返しの品を受けとると、飯田はバイクにまたがり帰って行った。
静香は帰ろうと車のドアに手をかけた。
「なあ?静香。今度、ゆっくり遊びに来てくれるか?
話があるんだ。」
何となくだが、いつもより難しい顔を静香に向けた。
「わかったわ。いつ?」
「そうだな。来週の火曜日が休みだから、その時に!」
そう約束して、静香は白石と別れた。
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