476. 静香達の危機

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476. 静香達の危機

「ど、どうしてそう思うの?」 やっと静香から出た言葉はなぜか問いかけの言葉になっていた。 胸の中はもう、ドキドキと鼓動が波打っていて震えがとまらなかった程だった。 「チーフの手術の日。私も病院に行ったろ? 駐車場に静香の車が停まっていたから、私より早く来たんだなと思って、病院の入り口まで行った時…チーフの母親に会ったんだ…」 「え?お義母さんに?」 「ああ。青い顔してさ。私の事も解らない程落ち込んでいた顔をしていたんだ。 それで、こっちからチーフの母親に声をかけたんだよ。 今日は何時からチーフの腕の手術なのですか?ってね。」 冷たいお茶をテーブルに置くと 「それどころじゃないみたいな顔してさ。 加奈ちゃん?あなたは息子と静ちゃんが付き合ってるの知ってるの? って聞かれてさ。 何の事だか全く理解出来なくて… どうしてそう思うのか訪ねたんだ。 そうしたらさ。一緒にシャワールームに入って楽しそうにおしゃべりしながら2人でいたって…」 静香は冷や汗が止まらなかった。 『あの時の足音は加奈さんじゃなくて、お義母さんだったなんて… どうしよう。どうしよう。もう、おしまいよね?』 静香は下を向いて汗だくになっていた。 「静香?答えてくれるか? いつから付き合い始めた? シラを切り通しても無駄だぞ? どうして、今まで私に隠していたんだ? そんなに私は静香にとって信用出来ない女だったのか? 悲しいよ…静香…友達じゃなかったんだな?」 「違う!加奈さんの弟だったから…知ったら別れてくれ!って言われると思ってたから…」 「そっか。そうだな。知ったら私が別れさせたよ!」 やっぱり、加奈さんは弟が可愛いものね…今は…今は、誰にも知られたくなかった。 静香はポロポロと涙が溢れて止まらなかった。 「静香…誰から見ても不倫は好ましくないぞ? あの日、静香と別れてから…実はチーフのお母さんと近くの個室がある割烹屋で食事をすることになってたんだ。」 ああ。用事があるってそう言うことか。 静香は一つ一つ確かめるように記憶をたどった。 「手術は2時からだから、1時半には病院に行くから、1時間は話す時間があったんだ。」 ペットボトルの蓋を開けて、白石は1口口にした。 「私は直球しか投げられないから、ハッキリ言うよ! チーフのお母さんに頼まれたんだ。 今回は静香の味方にはなれない! 息子と静香を別れされてほしいと言われた! 悪いけど、私もそれが絶対ベストだと思う。 いいか?憲一はどうする?病気の母親はどうする?旦那は? 全部投げ捨てて、それでもチーフと一緒になりたいのか? いや!チーフの両親が反対しているのになれるのか?」 ああ。この目。刺すような鋭いこの目に…私は耐えきることなんて出来ない… 「わかったわ…よく帰って考える…」 静香はいても立っても居られなくて、その場からすぐにでも消え去りたかった。 「静香…本当に2人の為なんだよ? わかってくれるか? 静香には酷なことを言ってるのもわかる。 すまないけど、チーフの姉としても賛成は絶対できないから!」 「……」 静香は無言のまま、白石の借家を後にした。 静香は泣きながら運転した。 帰宅の道とは反対方向に向かっていた。 気が付くと誰も居ない飯田の店に着いていた。 とにかく、静香は飯田に電話をした。 飯田は電話の向こうで泣きじゃくる静香の声にあわてて、バイクを走らせた。 直ぐに飯田はやって来た。 「静香?どうした?何があったんだ?」 車の助手席に乗り込んだ飯田は、静香を抱き締めた。 「あの日…尚ちゃんの手術の日のシャワールームの外に居たのは…加奈さんじゃなくて、尚ちゃんのお義母さんだったの。 加奈さんをあの日…手術前に割烹屋に呼び出して…私と尚ちゃんを別れさせて欲しいと加奈さんに頼んだみたいなの。 もう!もう。終わりよ!2度とこの店には私は来られない!」 そう言うと、静香は飯田の胸の中で泣きじゃくった。 「お袋が、加奈さんに?そうか、だから退院してから様子がおかしかったんだ。 なんかさ。俺をずっと避けてる感じがしたんだ。 静香?お袋に言われて、俺の事を諦めるのか?諦められるのか?なあ?」 「諦められるわけないじゃない! でも、今直ぐに駆け落ちなんてできないよ。 お母さんを見捨ててまで、憲一を見捨てて、出て行くことなんて出来ないよ〰️!」 静香は自分の今の気持ちをぶちまけた。 「静香。当たり前だろ?誰が今直ぐ駆け落ちするなんて言ったんだよ! 時を待つんだ。2年でも3年でも!5年でもな!」 「尚ちゃん…でも、この店に…たとえ10年先でも来られやしないわ。」 「この店を再開するのは止めるよ!」 「え?尚ちゃんの店が?諦めちゃうの?閉店しちゃうの?」 「静香を受け入れてくれないお袋の側で やる意味ないだろ? 初めから、俺は焼肉とちゃんこ鍋の店をやりたかったんだ! 親父の為に頑張ったんだ! だけど、2度と親父は厨房に戻ることは出来ない…ならば、やる意味が俺にはもうないんだよ! 俺達を引き裂くお袋の為に…静香が居ない店をやる意味なんてないんだ! 俺。ちゃんこ屋で働くよ。勉強も兼ねてな。 この店よりなん十倍楽かわからないさ。 鍋を振ることは無くなるから、痛いの我慢して厨房に立たなくていいんだからな! お袋には、どうしてもフライパンが持てないと言って、閉店することを伝えるよ。 今夜言うよ。静香と別れさせてくれって加奈さんに頼んだからなのね? なんて、言われる前にな!」 「尚ちゃん…それで、いいの?」 「ああ。静香とこの店を開店出来ないなら、やる意味なんてサラサラないからな! どうしてもお袋がやりたいなら、本当の息子とやればいいんだ! 俺は親父が死んだら、お袋の面倒は見るつもりはない! 親父が死んだら…出て行くつもりだ!」 「尚ちゃん…」 静香は飯田の本当の胸の内を聞いた気がした。
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