477. それぞれの道

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477. それぞれの道

飯田は店に入り明かりをつけた。 そして、静香の車に戻って 「こうしておけば、お袋が俺が一人でリハビリの為に、料理の練習しているように思うだろ? 静香?ホテルに行こう。」 「え?」 「まだ3時だ。加奈さんの借家から5時過ぎに出たと過程しても、夕方6時には帰れる計算だし、とにかく、愛を確かめ合いたい!」 静香は頷くと、いつものホテルに向かった。 「ここは落ち着くな。俺も少し遠くのちゃんこ屋に働く口を見つけて、アパートにでも住もうかな。 どうせ、親父は退院したら施設に行くらしいからさ。」 「え?そうなの?」 「ああ。親父はリハビリしても、歩けないらしい。 要介護3とか4とかなるらしい。 お袋の力ではベッドから起こすことも出来ないし、俺も四六時中、付きっきりに介護することも出来ないしさ。 しかたないさ。それがお互いの為だろう?」 「大変なのね。尚ちゃんのところも…」 「親が居ればいつかはどこの家でも、そうなる時がくるだろ? 遅いか早いかだけだよ。」 飯田はこれ以上家族の話はしたくなくて、静香の口をふさぐように口づけを交わした。 そして、静香はそのままベッドに倒れた。 「静香。俺は夢を捨てたわけじゃないからな。 やっぱり、俺がやりたい店を持つために今は修行することにしただけだから! 一皮も二皮も剥けて、成長してから店を持つだけだからな!」 静香はコクリと頷いた。 「待っててくれよな?だから、静香も仕事を見つけてくれよな? 渡したお金は失業保険と思って使ってくれよな?」 「尚ちゃん…その事だけど、預かったお金は尚ちゃんに返すよ。 アパートの資金にしてよ。電化製品とか、敷金礼金とか結構かかるんだし…ね?」 「大丈夫だよ。そのくらいの金は持ってるよ(笑) それは、静香のお金だからな? この間、ハワイ行くときの資金として預かるみたいな事もいってたけどさ。 それはそれ!これはこれ! とにかく、あげたものは返してくれるな。な?」 「尚ちゃん…うん…わかったわ。 とにかく、預かっておくわ。」 「うん。もう、好きにしてくれ。 俺は明日からハローワークに通って、海に近い方のちゃんこ屋を探してみるよ! 大洗付近なら、魚も旨いし釣りもできるしさ。 守にフェリー乗せて貰って楽しい未来がやってくると思うとワクワクしてるよ♪ 早く、決断するんだったな。 そうすれば静香にこんな思いさせなくて済んだかも知れないな。」 「尚ちゃん…」 「とにかく、静香に別れようなんて言われなくて良かったよ。 友達1人失くしたけどな。仕方ないよな。」 加奈さん…もう、会えないのかな? 今は無理でも…いつかわかってくれる時が来るといいなあ。 天涯孤独の白石の事を考えると、静香は 悲しくなった。 もう、料理教室は終わりなんだ… 憲一になんて言おう… 目の手術で当分来られないって言っておこうか… 姉御のような白石。尚ちゃんの本当のお姉さん。 だから、静香は白石に惹かれたのだ。 失った友達はあまりにも静香のダメージが大きかった。 その大きく空いた穴を埋め尽くすように、2人は抱き合った。 それから、1週間が過ぎた。 静香が買い物から帰ろうと車に乗り込んだ時に、携帯が鳴った。 「あ!尚ちゃんだわ!」 静香は車のドアを締めると、電話に出た。 「もしもし。尚ちゃん?お仕事見つかったの?」 飯田はあの日の夜、どうしても重いフライパンを持つとしびれて、落としてしまうと母親に言って店じまいをして、職を探す道を選ぶと相談したのだ。 母親も息子にこれ以上辛い思いはさせたくないと思ったのか、尚人の好きにしたらいいと言ってくれたらしい。 静香と別れるチャンスかも知れないと思ったのかも知れない。 あの夜に、白石との会話をまさか飯田が知っているとは思ってもみなかったのだ。 「静香。大洗のちゃんこ屋に就職が決まった! それと、守と一緒にアパートに住むからと言ったら、すんなりお袋が許可したよ!」 「え?守さんと?」 「ああ。実は守も釣り屋の店を先月辞めたんだ。 本格的にプロアングラーとして、やっていくつもりのようだ。 マリオからあのフェリーを貰ったらしい。プロとしての門出の祝いだって言ってな。 それで、マリオがアパートを見つけてくれてさ。 まあ、マリオは不動産のプロだからな(笑) 大洗なんだから守と一緒に住めばいいんじゃないか? 尚人は料理出来るから、守の健康面で栄養不足の心配しなくて済むしな!なんて言われてさ。 2部屋あるから、家賃も折半だと凄く安いんだ♪」 「そう。守さんと同居するのね?」 静香は一人暮らしより、いいかと思った。 急に昔の恋人の山口を思い出したからだ。 『尚ちゃんは山口とは違うから…心配しないけど…オッパイ星人みたいに押しかけ女房女が現れないとも限らないしね!』 「静香?ごめんな。守が居るから…やっぱり会うときは外になるな…」 飯田は静香の声が寂しそうに聞こえたのだ。 「え?いいのよ!また、お義母さんに様子見に来られたらたまったもんじゃないし! 私は守さんと同居でホッとしたわ。 尚ちゃんを一人にしてると女がほっとかないでしょ?」 「え?何言ってんだよ! 俺は静香以外は女は目に入らないし、俺?モテたことないぞ?」 「尚ちゃんは今から一皮も二皮も剥けていい男になるんだもの。 尚ちゃんがモテるのはこれからよ♪」 「うん!静香が俺に愛想付かないように男に磨きをかけるよ♪」 「男の人っていいわよね? 歳を重ねる毎に磨きがかかるから! 女はどんどんおばさんになるだけだわ…」 「静香?俺は何年経っても、俺の愛は変わらないからな? 静香も働き場所が変わって…いい男に心奪われるなよ?」 「もう!尚ちゃんよりいい男なんて世の中居るわけないじゃない!」 2人で笑って、電話を切った。 これから、お互い違う就職の道が待っていたのだった。
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