478. 白石の事

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478. 白石の事

ホテル帰りの車の中で、飯田が 「あれから加奈さんは何か言ってこないか?」 「う…ん。何となくだけど…私から連絡あるまでは加奈さんからは電話かかって来ることは無いような気がするの…」 「そっか。俺達は別れたと思っているのかな? まあ、守にもお袋が彼女出来たら必ず教えてね?なんて言ったみたいだ。 守は俺達の事を知っている唯一の理解者だからさ。 わかりましただけ答えたみたいだ。」 「ああ。そうなんだ。守さんとシェアなら、安心だと思ったのね? 守さんは、お義母さんの味方だと思っているのね。」 「ったく!油断もすきもないお袋だよな! 守が向こうにチクるとでも思っているのかよ!」 「でも…わからないわよ?お金の力って魔力があるから!」 「まさか!俺は守を信じるよ! それに守は俺とお袋は血が繋がっていないって知ってるしな。 俺は守にだけはその事も話してある。 あ。大ちゃんはお袋同士の会話を聞いて知ってるから、釣り仲間は知ってるか(笑)」 「私達の味方になってくれる人が1人位居ても良いわよね?」 「ああ。本当にそうだな。守とは一生付き合う友達だ。 静香と結婚してもな。まあ、大ちゃんもマリオもずっと友達でありたいけどな。」 考えたら、静香には何でも話せる一生付き合って行けるような友達はいなかった。 唯一、白石だけだったかも知れない… なんかそう思うと、悲しくなった。 「静香?加奈さんの事考えているのか? 俺達が結婚したら、きっと加奈さんも静香の元に帰ってきてくれるよ。 時を待とう。な。静香。」 何も言ってないのに、尚ちゃんは私の気持ちを察してくれてる… 「尚ちゃんは恋人の前に私の大切な親友ね。 気持ちがわかり合えるって素敵ね♪」 「当たり前だろ?前にも言ったよな? 俺達はビジネスのパートナーでもあり、人生のパートナーでもあるんだって。」 飯田は静香の肩を抱き寄せた。 「うん。そうね。本当にそうね…」 「全てに対して…時を待とう。」 夕焼け色に空が染まる頃、静香は家に着いた。 明日から、お盆月に入る季節になっていた。 あ。だから、キリがいいから来週の月曜日から入社なんだ。 「ただいま〜。」 玄関を開けると、ちびまる子ちゃんのテレビが流れていた。 「お母さん。おかえりなさい。」 「あ。憲一?加奈さんがね、お料理教室今月は来られないんですって。」 「え?なんで?」 「え。うん。目の手術の為に…入院するかも知れないみたいよ。 手術するとね。半年位は遠くの運転は駄目みたい…だから、今年いっぱいは無理かなって…」 「目の手術?あ。加奈お姉ちゃん、言ってたよね。  角膜のドナーの人、見つかったんだ〜。 良かったね。 今年は無理かー。仕方ないね。」 嘘の話は静香も躊躇したが、そのうち本当に来ない事を察するように、 仕事を変えて遠くに行ったことにしようと考えていた。 『ごめんね。憲一。』 静香は心で謝罪した。 「加奈子さんが来なくても、おばあちゃんと料理教室しましょう? 憲一?今度はお寿司作りしましようか?ね?」 「え?お寿司?それって握り寿司?」 「ええ。おばあちゃん、これでも寿司屋で働いているときには握らせてはくれなかったけど、自分なりに練習していたからコツは知ってるのよ。」 「そうだね。お母さんの握り寿司は美味しいわよね。 私も教えてほしいわ!」 「うん!僕もお寿司握りたい♪」 「それじゃ、今度よっちゃんが帰ってくるお盆に3人で作りましょう♪」 「わ〜い♪楽しみだ〜♪」 「秋にはそば粉が出来る季節だから、そば打ちも教えてあげるわね♪」 「え?みよばあはそばも打てるの?」 「ええ。そばは昔良く作っていたから、出来るわよ♪ 秋のそば粉は香り高くて、美味しいのよ。 十割そばなんて、打ちたては最高よ!」 「わ〜い♪みよばあはお母さんと違って、なんでも出来るから尊敬しちゃうな〜♪」 「どうせ。お母さんは何にもできないぐーたら母さんよね!」 静香はちょっとふくれっ面になった。 「お母さんは働き頭でいいんじゃない? 後…ハンバーグだけは誰よりも美味しいよ!」 憲一もこの頃は母親を少しだけ立ててくれていた。 「そうね。働き頭だから、来週からは働きに行くから、よしばあをよく見てね。憲一!」 「うん。わかった。よしばあと夕飯は作るからお母さんはお仕事頑張ってね。」 「静香?運転にはくれぐれも注意してね?早目に出るのよ? 洗濯物は私がするからね? もう、病人じゃないし、今度の診察の時はバスで行くから大丈夫よ。」 来週の水曜日は診察の日だった。 入社したばかりで、研修も休めなかった。 実家のすぐ近くにバス停はあった。 そのバスに乗っていけば病院まで行ってくれるのだ。 「お母さん。ごめんね。来月の第1水曜日は休暇取るね?」 「静香。ありがとう。でも、体が何でもない時はバスで行くから大丈夫よ。 何かね。家族といると心が落ち着いてどんどん体が治って行くのを感じるの。 だから、少し歩かないと筋肉が無くなるからバスで行きたいのよ。」 「そう。わかったわ。でも、再来月は休暇を取って連れて行くわね。 先生に話を聞かないと私も不安だから。」 「そう。そうね。3ヶ月に一度位一緒について来てもらおうかしら?」 そんな話をして、その日は夕飯を食べた。
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