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482. 教育主幹の話
3階の会議室に入ると、机の上に名前が書いてあった。
静香は一番前の窓際の席だった。
長テーブルが1列に2脚あった。
それが5列。3×10=30人って事だ。
入社式だよね?8月の入社がこんなにいるの?
こんな中途半端な月に?
静香が資料をバッグから取り出すと、後ろの席の20代の女性が
「何処の営業所?」
と、話しかけてきた。振り向くと机の上に『夏目 凛子』と書いてあった。
「柏営業所です。夏目さんは?」
「私は目黒営業所よ。岡野さんは、茨城県出身?」
「え?そうよ。よくわかったわね。」
「だって茨城なまりだから。」
「え?やっぱり?生まれは東京だったのに、25年も茨城に住んでるととっぷり染まるのね(笑)」
「フフフ。私は茨城育ちだったけど、大学が東京だったから、そのまま東京に就職したからなまりは消えたわ。
岡野さんもこっちに住めば、元々江戸っ子なら直ぐに元に戻るわよ(笑)」
「そんなもんなの?ねえ?今日の入社式って、全国から集まって来たの?」
「関東信越地方の事務員だよ。
営業所は全部で60営業所あるから、これだけの新人が集まったみたいね。
仕事きつかったり、一緒にやる人が合わなかったとかで、直ぐに辞めてしまう事務員が多いみたいよ!
柏は先輩事務員がきついって聞いたわよ?でも、来春退職だから、半年の辛抱で良かったんじゃない?
目黒もそうなのよ。だから、直ぐに先輩風拭かせるから良かったわ♪
あんなばばあと1年以上も一緒になんてやっていけないわよ!」
ばばあ?可愛い顔して、言葉はキツいわね。
向こうもそう(やっていけないって)思っていると思うけど…
時計は1時を指した。
キリッとした顔立ちの主幹らしき女性が入ってきた。
「教育主幹の藤森です。4日間よろしくお願いいたします。最後の金曜日に試験問題がありますので、ちゃんとメモしながら聞いてくださいね!
今日は自己紹介からお願いいたします。
なぜ当社を選んだのか、それと、自分の長所と短所を言ってくださいますか?
それでは、窓際の柏営業所の岡野さんからよろしくお願いいたします。
尚、机は県の順番から座ってもらっています。」
『なぜこの会社を選んだのか〰️?
長所と短所〰️?なんでいつも私が初っぱななの〰️?』
「えっと。なぜここを選んだのかと言いますと私は事務の経験はありますが、今まで6年間お店を経営していたので事務員の多い会社では、仕事が出来ないと目立つので、先輩が一人なら自分が出来ないのが目立たないからです。」
ドッと笑い声が室内中に響き渡った。
『え?私?何かまた、変な事言ったの〰️?』
「ちょ、長所は多分…人を和ますことで、短所はおっちょこちょいの所です。」
そう言うと、静香は恥ずかしくて直ぐに席に座った。
周りはまだクスクスと笑っていた。
「岡野さんは正直な性格なんですね。
そこは良いところです。短所は少しずつ直して行ってください!
ここは保険会社です。事務のミスは営業所のミスになり、それは会社の責任になってしまうのです。
あなた達のミスは汚点となり、営業所のマイナスになります。
そのミスは毎月全国版で発表されます。
事務のミス、営業者のミス、所長のミスとマイナス点数が記載されてしまいます。
だから、本社に書類を提出するまでに事務ミスは無いように、何度も何度もチェックしてから送らなければなりません。
事務員の完璧主義を求められます。
おっちょこちょいの性格なのですみませんは通用しないのです!
皆さん。マイナス点数が営業所に付かないようによろしくお願いしますね!」
『うわ〰️!私の性格は許されない事なんだ〰️!本当に気を付けないと営業所全体に迷惑かかるんだ〰️!』
「教育主幹!マイナス点数を付けられるとその月の営業所はどんなペナルティが課せられるんですか?」
後ろの方で質問が飛んだ。
「はい。後で良く説明しますが、会社は営業所毎に毎月経費を計算して所長に知らせますが、その経費の出し方は契約した数字に○○%が営業所の経費になりますが、マイナス分を引かれますので営業所によっては、事務ミスのお陰で100%もらえない所が出て来ると言うことです!」
「それでは、契約も余り出なくて、事務ミスが多かった時はどうなるのですか?」
後ろの夏目が質問した。
「はい。そこの営業所は経費が余り無くて、所長がお給料から差し引かれる事になります。」
周りがざわめき出した。
「経費って、何ですか?」
「はい。水道光熱費。コピー用紙代、コピーのインク代、事務用品費ですね。後、お茶とか雑費ですね。」
『えー!そんなの会社が支払う事なんじゃないの〰️?なんで所長がお給料からそこまでしなくちゃいけないの〰️?』
そんな声が静香以外にも聞こえてきた。
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