496. 貧血が治らない母親

1/1

278人が本棚に入れています
本棚に追加
/675ページ

496. 貧血が治らない母親

「し…ず…か…」 母親の蚊の鳴くような声が耳ともに聞こえた。 「お母さん?お母さん?どうしちゃったの?」 「大丈夫…よ。ただの貧血だから…水…」 憲一がさっきの麦茶をコップに入れて、持ってきてくれた。 「生水より、みよばあがいつも麦茶を沸かして作った水の方がお腹にいいよね?」 母親はコクリと頷いて、麦茶を少し飲んだ。 憲一が枕とタオルケットを廊下に持ってきてそのまま寝かせてくれたので、落ち着きを取り戻した母親だった。 「ありがとう。応急処置は憲一が完璧ね。」 その言葉に静香は自分が情けなくなった。 「ホント。私はオロオロするばかりで、何も出来ないでいたのに… ありがとう。憲一。」 「前も一度、これに似たようなことがあったから。それと、今、お父さんにメールしたよ。」 「え?前に?いつ?」 「1週間前かな?」 「あのときは貧血の軽いのだったから、憲一に応急処置のやり方を頼んだだけよ。 静香は気にしないで…血になるものを食べてなかったから…よ。 お粥ばかりだったから… 今日はお薬飲むの忘れてしまって…部屋に取りに行く所でめまいがしちゃっただけよ。」 憲一は母親の部屋に行って、すぐに薬を持ってきた。 「憲一は本当に良く気がつく子供ね。 お母さん。関心しちゃったわ。」 「お母さんは稼ぎ頭!僕はヘルパーだから!」 そんな話をしていると、廊下の縁側の前に車が入ってきた。 旦那の車だった。 3人で縁側にいたので、旦那は安堵したようだ。 「良かった〜。お義母さん?具合いは? 憲一がみよばあが倒れて大変ってメールがあったから。」 心配そうな顔をして、母親を覗く旦那に 「大丈夫。いつもの貧血だから。 静香が救急車!!なんて叫ぶもんだから、びっくりして起きたわよ(笑)」 その声を聞いて安心した旦那が、 「大事に至らなくて良かった〰。 でも、病院にはお盆明け行った方がいいですよ。」 というと、静香が 「そうね。お母さん。私が病院に連れて行くわ!」 「大丈夫よ。一人で行くわ。だって、静香の会社は盆明け地獄なんでしょ? ブツブツ昨日言ってたわよね?」 ハッ!そうだった。家に帰って母親にそのことを愚痴こぼしてしまったんだった。 「それじゃ、行きは病院に連れて行くわ。」 「いえ。火曜日にしようかしら? 盆明けは病院も患者のごったがえで地獄よね? 多分、待つだけで3時間。診てもらってお薬貰ったら…多分午後2時過ぎるわ… 貧血起きそうよ〜。」 それを聞いた静香が 「わかったわ。火曜日は有給取るわ。 検査結果を聞かないと、私も心配だから!」 母親はわかったわかったと言わんばかりに、頷いた。 そして、母親が作ったおやつを食べてシャワーを浴びて、お昼に手巻き寿司を作って食べて、皆でお昼寝をした。 夕方になると迎え盆をして、てんやわんやの1日が終わった。 次の日は旦那の実家の草刈りだった。 「みよばあ?僕はよしばあの所に草刈りの後、お泊りしてくるけどお母さんと二人で大丈夫かな?」 「え?なにそれ?お母さんじゃ頼りにならないって言い方に聞えるけど?」 「え?だって本当の事だから!」 静香はムッとしたが、昨日の今日なので口ごたえはしなかった。 「憲一?お母さんだって、いざって言う時は大丈夫だよ。 静香?何かあった時はすぐに連絡くれるか?」 「わかったわ。」 それを聞いていた母親が、 「もう!皆?私は大丈夫よ。 昨日は朝早く起きて張り切りすぎただけよ。 今日は静香に任せて、静かにしているわ。」 今朝は静香が、いなり寿司を作って皆で食べた。 「お母さんには今日から毎朝、野菜ジュースを作ってあげることにしたからね。」 そう言って、バナナとほうれん草と鉄分の入った飲むヨーグルトをミキサーにかけたものをコップに注いで母親の前に置いた。 母親はあまり野菜ジュースは好きではなかったが、娘が作ってくれたものだから無理して飲んでみた。 「あら。甘くて美味しい。これなら飲めるわ。」 「でしょ?みんなにも飲ませてあげるね。」 旦那も野菜ジュースは得意ではなかった。 憲一は美味しく飲んだが、旦那は不味そうな顔をして飲んだ。 「静香。悪い。俺は甘いジュースは苦手だ。 俺はトマトジュースなら飲むよ。」 「それじゃさ。よしばあのトマトを沢山貰ってこようよ! それならお父さんも飲めるよね?」 「そうだな。よし、そろそろ行こうか。」 旦那と憲一は一泊の用意を車に積むと、よしばあの所に向かった。
/675ページ

最初のコメントを投稿しよう!

278人が本棚に入れています
本棚に追加