497. 憲一の機転

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497. 憲一の機転

憲一が居ない家は静まりかえっていた。 「お母さん。お昼は何がいい? 食べたいものを言って?」 母親はソファーでテレビを観ながら 「さっぱりしたものでいいわ。 いつもはお粥だけど…血になるものを食べないとね。 でも、お肉は食べたくないから…魚でいいわ。」 静香は冷凍庫を開けた。 『うわ。イカ釣りしたときにお裾分けしたイカがまだ残ってる。 消化悪いからこれはパスね💦』 カレイにイワシ、鯖、鯵…とにかく憲一と釣り仲間と行ったときのお魚達が少しずつ残っていた。 鯖の味噌煮とイワシのつみれのお吸い物を作ることにした。 「お母さん。とにかくお魚を皆使っちゃうね。 つみれとハンバーグも作ろうか。 これってもう、半年近く前の魚達よね?」 「あら?そうね。一人だから…そんなに食べられなかったわ。 入院もしちゃったし… 考えてみれば、入院する1ヶ月前は料理するのも億劫で… 惣菜を買ってきてたかも…後はよしさんにもらった野菜中心の生活だったわね… 私ってほとんど、もらい物で食料はすましていたかも(笑) 年金者には助かるわね。感謝だわ(笑)」 笑った母親の横顔がなんだか寂しそうな感じがした。 そうだ。父親は国民年金だった。 若い頃東京の会社で働いていたとき、厚生年金保険は支払っていたみたいだけど、対して勤めてなかったから、国民年金月額6万に1万から2万円のプラスに過ぎないらしい。 母親は遺族年金をもらっている。 白髪混じりの髪の毛を見てしまうと、年老いてしまう母親の未来の姿を想像してしまう… 離婚して飯田と『再婚』の2字が強く望めないでいる静香だった。 『来週の尚ちゃんとの約束…どうしよう… 諦めるしかないよね? クラス会出るの辞めるって言ったら、お母さんは無理してでも、私を行こうとさせるわよね? あ。その前に明日のディズニーランドの一泊…お母さん一人にして行けないわよね? どうしよう。よっちゃんにキャンセルしてもらわないと! 明日だと全額ホテル代収めないと行けないよね? ドタキャンはホテル代返ってこないから!』 食事が終わると静香は旦那にメールをした。 すぐにメールが返ってきた。 『心配しないでね。 よしばあがみよばあの所に泊まるって!』 『え?なんか旦那がくれたメールじゃないわよね?憲一が打ったのかしら? お義母さんがこっちに来て泊まるってこと? 全くもう!憲一が頼んだのね?』 メールを打ち返そうと思ったら、固定電話が鳴った。 母親が電話に出た。 「はい。もしもし。関根です。 え?あら、よしさん? え?こっちに?明日?別にいいわよ。 でも、珍しいわね。よしさんが…? ええ。構わないわ。 3人ともディズニーランドに行ってその後一泊するって言ってたから! あら、そうなの?そうね。それじゃ明日午後からね。 わかったわ。お待ちしてますね。」 そう言って、母親は受話器を置いた。 「え?お義母さんから?なんだって?」 「明日の午後にみよさんがここに泊まりに来るって言うのよ。 前々から話は良くしていたのよ。 今度ね。私の所では編み物教室をして、よしさんの所では梅干し作りとか、米麹を作って甘酒作りとか、味噌作りとかしようって話し合っていたのよ。 編み物教室が明日になったって言うことよ♪」 「え?そうなの?知らなかった…」 でもきっと、憲一が裏であやっ吊ったわよね? 流石憲一! 絶対行きたいから、手回ししたのね! 静香は憲一の機転に脱帽だ。 次の日。お昼前に旦那と憲一は帰ってきた。 「みよばあ♪お土産だよ♪よしばあが作ったぼた餅と混ぜご飯と煮物とほうれん草の胡麻和えとスイカとトマトだよ。 午後2時によしばあが自転車で来るって♪ 送り盆も2人で行こうって言ってたよ。 それと、お泊りの用意は僕が預かったの。 あとね。毛糸と編み棒を買ってきてあったみたいだよ。」 憲一がそう言って、母親に渡した。 「あらあら。お昼と夕飯と持参で来てくれるの? 編み物教室のセットまで揃えてくれて…感謝だわね。」 「僕達、ディズニーランドに行ってお泊りしてくるけど、よしばあと一緒だから寂しくないよね?」 「ありがとう。憲一?おばあちゃんの事をそこまで思って段取りしてくれたの?」 母親は、全てお見通しだった。 それでも、気を使って段取りしてくれた憲一がとても可愛かった。 お昼に混ぜご飯を食べると、静香達家族はディズニーランドに出かけるのに支度をした。 「それじゃね。みよばあ♪行ってきま〜す♪お土産買ってくるからね〜♪」 憲一はよしばあにお小遣いを沢山貰ったようだ。
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