502. 母親の診査は…?

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502. 母親の診査は…?

10時過ぎに母親は診察室に呼ばれた。 尿検査をして、血液検査をした。 主治医が 「関根さん?退院して、もうすぐ3ヶ月になりますが、お体の具合はいかがですか?」 主治医は優しく母親に聞いた。 「はい。便秘がちですが、お薬もらっているので大丈夫です。 ただ、食欲不振と貧血が続いています。」 「そうですね。血液検査の結果はヘログロミンの数が少ないですからね。 食欲不振とは?毎日どのくらい食べられていますか?」 母親はちょっと考えて 「一日、5食と言われてましたけど…4食がやっとです。 お粥が多いです。今は暑いのでそうめんが多いですね。 あ。朝は娘が野菜をミキサーにかけて飲ませてもらっています。」 「そうですか。タンパク質はどれだけ採ってますか? お肉とか、魚とか、大豆とかです。」 「お粥にしらす干しはかけてます。後、娘が夜煮魚を作ってくれます。」 「そうですか…圧倒的にタンパク質とミネラル不足ですね。 娘さん?野菜ジュースに今度から豆乳を入れてくださいますか? 豆乳はタンパク質ですからね。 それと、ご飯が食べられないなら納豆だけとか、海藻は味噌汁に沢山入れて食べさせてあげてください。 胃を半分切除しても、半年過ぎると元に戻ります。 食べたくないと思わず、食べなくちゃだめと気持ちを切り替えてくださいますか? このままだと、治るものも治りませんよ。 ただし、少しずつ多くしてくださいね。 お粥だけでは、どんどん痩せてしまいます。 できるだけ、前の体重に戻す努力も必要ですよ。 お粥じゃないと食べられないなら、色んな野菜やお肉を入れて雑炊を食べて下さい。 それを2ヶ月やってみてから、また検査しましょうか? はっきり言って、手術前よりヘログロミンが減っています。 貧血のお薬より、食べ物で体を元に戻さないと、今度は違う病気になってしまいますからね。」 「違う病気?」 母親は心配そうに主治医を見つめた。 「血液の病気です。 具体的には、白血病や骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの血液悪性腫瘍、再生不良性貧血などの血球をうまく作れなくなる病気、血小板減少症や血友病などの出血しやすく、血が止まりづらい病気などがあるんですよ。 せっかく、癌は取り除いたのに、いつまでも癌が頭から離れないで食欲不振でいたら、治るものも治りませんよ。 病気は自分で作ってしまうんです。 2ヶ月頑張ってやってみてください。 ヘログロミンが増えたら、お薬は減らしますからね。 関根さん。同じような手術をした方も、明るく頑張っています。 再発しないように、まずは食べ物で免疫力アップですよ!」 そう言って、主治医は資料を母親にくれて、励ましてくれた。 母親は再発の言葉が主治医の口から出なくて安心したようだ。 診察室を出ると、母親が 「静香。美味しいお店に連れて行ってくれる?」 久しぶりに笑顔で食事をねだる母親を見て、静香は心底嬉しかった。 ちょっと遠回りして、お刺身の美味しい和食店に連れて行った。 レバニラの美味しいお店でも良かったのだけど、油炒めは母親は食べて二口で箸を止めると思ったのだ。 大好きなお刺身なら、ここだと前からの静香は思っていた。 お店の構えは古いけど、海鮮丼や刺身盛り合わせは美味しいお店。 「あら。ここはお父さんが生きていたときに静香と美咲と皆で来たわね♪」 昔の話で盛り上がり、母親は少しおセンチになって涙を浮かべていた。 あの頃は何の悩みもなくて、静香は店を持ちたいと目を輝かせながら話していたのも思い出した。 父親はたまにひょうきんな事を言ったりしたが、母親だけが笑っていた。 学生だった静香達は親父ギャグだと言ってしらけていたのも思い出した。 静香も父親を思い出したら、自然と涙が流れた。 母親は刺し身だけを食べてお腹いっぱいになり、満足な顔で店を出た。 「今度、ローストビーフの美味しい所知ってるから静香、連れて行ってくれる?」 母親が主治医の話を実行したかったようで、静香にねだった。 「うん!私も食べたい。今度は憲一と3人で行こうね♪」 今日、病院で出逢った患者さんの笑顔で言った言葉が頭から離れなかったのか、母親もマイナス思考の言葉が消えていた。 「私も頑張って生きて行くことにしたわ!」 母親の横顔が何かに吹っ切れた清々しい顔をしていた。
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