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510. 飯田の腹痛
チェックアウトの10時過ぎても、飯田と静香は部屋にいた。
静香を堪能したいと言って、ベッドに押し倒すと浴衣を脱がせて始まったのはいいのだけれど…
「ちょっとタンマ!」
飯田の額が脂汗で流れていた。
途中で腹痛を起こして、トイレに入りっぱなしになった。
「尚ちゃん?大丈夫?やっぱ、食べすぎよ!
最後に牛乳を一気飲みしたから…」
「…そう…かもな。とにかく…フロントに…コールして…正露丸か赤玉か…持ってきてくれるように頼んでくれないか?」
トイレのドアの向こうで、絞り出すような声で飯田が答えた。
静香はフロントに電話をして、おクスリを要求した。
フロント係が直ぐに下痢止め薬を持ってきてくれた。
「尚ちゃん?赤玉くれたよ?」
トイレのドアを飯田はやっとの思いで開けた。
飯田はくすりを静香から貰うと口に入れた。
飯田がベッドに寝そべると、静香はタオルで汗をふいてあげた。
「大丈夫?尚ちゃん?運転して帰れそう?」
「う…ん。ちょっともう少し待っててくれるかな?」
静香はフロントに電話をして、落ち着いたらチェックアウトしますから、もう少し待っててくださいと頼んだ。
その後、また、飯田はトイレにかけこもっていた。
そろそろ10時になる。フロントはチェックアウトの時間を過ぎても大丈夫ですよとは言ってくれた。
「尚ちゃん?お腹大丈夫?おクスリ効かないの?」
やっとトイレから出たのは10時を回っていた。
「ケツの穴ヒリヒリしてきた。」
飯田は着替えると
「ごめんな。せっかくの旅館の思い出を台無しにして。」
静香は飯田がトイレに行っている間に、荷物は車に置いてきていた。
「良い思い出よ♪きっと忘れることが無い思い出ね。
プリンもバッグに入れたから忘れ物は無いわ。」
飯田も苦笑いして
「静香。キスしよう。」
お腹も落ち着いた飯田は旅館を出る最後の思い出にと。
ドアの前で静香とキスを交わした。
「今度は本当に夫婦になって、またここに来ような。」
「うん。今度は食べ過ぎに気をつけてね(笑)」
「ああ。そうする。ホント、無理できないんだな。もう、若くないんだなぁ。」
「いやーね。あんなに食べたら小学生でもお腹壊すわ。今度は私も注意するわね(笑)」
「ハハハ。そうしてくれ。やっぱ俺は大食い大会は出るのやめるよ(笑)後が大変だってわかったから(笑)」
笑顔で静香の肩を抱きながら、フロントまで歩いてチェックアウトした。
「お体の具合は大丈夫ですか?」
フロントのスタッフが飯田に声をかけてくれた。
「おクスリをもらったからどうにかおさまりました。ありがとうございました。」
飯田がお礼を言った。
「いえいえ。とにかく大事に至らなくて良かったです。
予備用にお持ちください。」
スタッフは下痢止めと胃薬を飯田に手渡してくれた。
「ありがとう。また、来るよ。」
「お待ちしています。お気をつけてお帰りください。」
フロントにいたスタッフ一同も会釈をしてくれた。
女将もさっきの仲居も出て来てくれて、玄関前まで見送りに来てくれたのだ。
「お大事にどうぞ。ありがとうございました。
また、お越しくださいませ。」
「おさがわせしました。また、来ます。」
二人は会釈をして車に乗り込んだ。
「俺さ。旅館なんて初めて来たけど、ここまでのおもてなしって初めての経験だよ。
俺さ。今、ちゃんこ屋で働いているだろ?
良く、おもてなしを大切に!って言われるんだ。
俺は学生時代から静香の店で働いて、印刷会社にも行って、自分の店で仕事しても、おもてなしなんて気持ちがなかったんだよな。
高級旅館だから、おもてなしが徹底していると思ったんだけど、違うんだよな。
お客の事を最優先してくれているから、おもてなしが自然に出てくるんだよな。
今度、自分の店を持つときはおもてなしの心を磨ける店にしようと思うよ。
それまでに、俺は心を磨いてみせるよ。」
ハンドルを持つ飯田の顔が、キラキラ輝いていた。
「尚ちゃん。カッコいい〜♪」
「うん。俺はカッコいいんだ。
静香を俺の虜にしたいもんな!
でも…そこのコンビニでトイレに入るよ(笑)」
まだまだ、飯田はトイレと仲良くしたいようだった。
途中、休憩をしながらお昼は信州蕎麦を食べた。
温かい鴨の出汁つゆの信州蕎麦は、飯田のお腹に優しくて何杯も食べたかったようだが、
静香が抑えて二杯までにした。
「信州蕎麦の鴨汁旨かったなあ〜。」
守にお土産と言って、信州蕎麦を買った。
静香は東京近くのサービスエリアで、東京のお土産を買った。
東京の友達の所に行ってることになっているからだ。
土浦駅の駐車場に着いた。
「静香。2日間ありがとう。また、どこかに行こうな。」
「うん。今度はお腹壊さないでね(笑)」
手を降る飯田はそのまま帰って行った。
なんだかんだ、もう夕方になっていた。
静香は憲一の母親の顔に戻り、自宅に着いた。
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