511. 偽りの言い訳

1/1

278人が本棚に入れています
本棚に追加
/675ページ

511. 偽りの言い訳

玄関を開けると、ウルトラマンティガの番組のエンディングテーマの音楽が聞こえてきた。 「あ!お母さん。おかえりなさ〜い。」 そう言って、玄関にかけてきたのは憲一だった。 「はい。お土産。」 東京ばな奈のお土産を憲一に渡した。 「あっ。これ美味しいんだよね。 あれ?お母さん?東京まで同窓会に行ったの?」 「あ。うん。同窓会には行かなかったの。 お友達が来なかったから、そのまま東京のお友達の所に泊まっちゃったの。」 それを聞いていた母親が、 「それならそうと、ちゃんとお母さんに本当の事を言ってほしかったわ。」 怒った口調で母親に言われた。 「ごめんなさい。よっちゃんにはちゃんと言ったよ。」 「お母さん。心配したのよ? ほら、静香と同級生の良子ちゃんと今日、スーパーで会って何で同窓会に来なかったの?って言われちゃったのよ。 お母さん、焦っちゃって。 でも静香は同窓会に、行くって聞いてたから… 変な誤解させたくなかったから、よっちゃんの所に行かなくちゃいけなかったみたいなんて、口からでまかせ言っちゃったのよ。 やましいことしていないんだったら、初めから本当の事を言ってよ? お母さん。何も知らなくて恥ずかしい思いしちゃったのよ?」 やましいこと…してました。お母さん、ごめんなさい。 そんな事を言えるわけもなく 「ごめんなさい。まさか同級生に会うなんて思わなかったから… お母さんに本当の事を言わなくてすみませんでした。」 「後でどうせバレるんだから、昨日の夜でも電話出来たでしょ?」 「はい。ごめんなさい。」 昨日なんてできるわけないよ……尚ちゃんとずっと一緒にいたんだもの… 本当の事が後でバレたら、私はどうなるのだろう。 途中で知ってる人には会わなかったと思うけど… 葵ちゃんに出くわせなくてホント良かった〰💦 「お母さん。今日はナポリタンだよ。 僕が作ったんだ♪ご飯食べようよ。」 「ナポリタン?嬉しい〜。お母さん。大好き。」 怒っている母親の顔を見ないように、ナポリタンを3つの皿によそり、チキンサラダとスープを簡単に作るとテーブルに並べた。 「憲一のナポリタン美味しいわ。」 静香は憲一の方だけ見て会話していた。 すると、憲一が 「昨日ね。みよばあ、また貧血起きたんだよ?」 「憲一。言わなくていいわ。 昨日は軽い貧血だったから、おクスリ飲んだらすぐに治ったでしょ?」 すぐに憲一の言葉を否定するように、言葉を重ねた。 「お母さん…」 静香はもう、お泊りデートはしないと心に誓った。 多分、昨日は私が居なくて心細かったのかも知れないと思ったからだ。 だから、感情の裏返しで母親は怒っていると静香は察してしまったのだ。 「お母さん。やっぱりこの間主治医が言ってたようにタンパク質が足らないのよね。 ねえ。明日、お昼はお母さんが行きたいって言ってたローストビーフの美味しいレストランに3人で行きましょ?」 母親は軽く頷いた。 「そうね。先生がヘモグロビンが少ないと血液の病気になるって言ってたものね。 憲一?ローストビーフ食べてみたい?」 憲一は目を輝かせて 「ローストビーフってクリスマスの時に食べるオードブルの中に何切れか入ってるやつ?」 「あ。そうね。憲一も食べたことあるわね。 でも、そんな小さなローストビーフではないわ。 大きなお皿に2枚も大きなローストビーフが乗っているのよ。 柔らかくて、美味しいの♪ 付け合せのポテトサラダがまた美味しいの♪」 「へえー。美味しそう。食べてみたい♪」 静香の案がこんなに弾む会話になって、ホッとした静香だった。 夕食の母親の皿はほとんど食べてくれていた。 憲一が耳元で、 「お母さんが帰ってくるまでの、3回の食事はいつもお皿に食べ物が残っていて、食欲が全くなかったんだよ。」 と、教えてくれた。 憲一と母親は一緒にお風呂に入って、機嫌良く母親は部屋に戻った。 「明日のお昼はローストビーフだあ♪」 憲一も待ち焦がれている小さな子供のように、スキップしながら部屋に戻っていった。 静香はコーヒーを飲みながら、ソファーに一人座った。 ブーブー 携帯のバイブが鳴った。 ショートメールが来ていた。 「ん?誰だろう?」 静香はメールを読んで驚いた。 東京に居る礼子だった。 そう、泊まってきた事になってる友達からだ。 『元気?同窓会行かなかったの?良子から聞いたよ。よっちゃんの社宅に行ったって。 それって本当?怪しい。』 え?何を言ってるの?なんで? 『久しぶり〜。元気?怪しいって?なんで?』 静香はそう送って、様子をみてみた。 『よっちゃんのところになんて行ってないでしょう?』 え?なにか知ってるのかしら?どうしよう。 静香は考えて考えたすえに 『うん。実は東京の今の会社の事務の人の所に泊まりに行ってたの。』 静香にはこう答えるしか道はなかった。 『やっぱりね。その人って男でしょ?彼氏?』 何を言ってるのかしら?絶対に私を試しているよね? 誘導尋問なんて引っかからないんだから! 飯田の事は誰にも言っていないのだから、私が白状しない限りわかるはずも無いんだから! しっかりするのよ!静香! 『彼氏の訳ないでしょ?事務員は女性よ。』 『電話していい?』 静香は思いっきり深呼吸して、礼子の電話に出る決意をした。
/675ページ

最初のコメントを投稿しよう!

278人が本棚に入れています
本棚に追加