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512. 礼子の話
「もしもし、良子がね。静香が昨日の11時頃土浦駅でワゴン車に乗り込む所を、見たんだって。
私が誰が運転していたの?
って聞いたら、旦那のよっちゃんじゃなかったのは確かって言っててさ。
もしかしたら、家族には同窓会って言って出て来て、不倫してるんじゃないの?
って話てたのよ?どう?当たってるでしょ?
白状しちゃいなさいよ!
よっちゃんには絶対言わないからさ。」
駅で私達の事を良子は見ていたんだ。
困ったわ。とにかくしらを切り通すのよ!静香!
「あ。そうなんだ。運転していたのは東京の事務員の弟さんよ。
後部座席に彼女は乗っていたわ。
だから、私も後のドアを開けて入ったのよ。
私達新人事務員は臨時休業の日だったの。
だから、会おうって事になって迎えに来てくれたのよ。」
「その話には随分無理があるわね。
何?その臨時休業って?
何で彼女がわざわざ東京から静香を迎えに来る必要があるのよ?」
静香は心を落ち着かせながら
「金曜日は会社が進発式の日だったのよ。
1日営業社員が営業所に居ない日なの。
どこの営業所にも事務員は最低二人はいるのね。
営業社員が契約の申込書を持ってこないと事務員は電話番くらいだから、二人は必要ないの。
そんな日は一人が休める事になっているのよ。
だから、私達新人社員が仕事は慣れてないから休ませてくれることになったの。
まだ、今月入社したばかりなのよ。
それと、弟さんが駅まで迎えに来てくれたのは、理由があるのよ。
彼女は元々つくばの人なの。私より少し前に彼女は駅に着いていたから、迎えに来た弟さんの車の中にいたのよ。
良子だってそこまでは見ていなかったでしょ?
私達は合流したあと、彼女の実家に行ったのよ。
彼女の実家で待っていた母親は昼ご飯を用意していてくれて、私もご馳走になったの。
その後、彼女と行きたかったノバホールでクラシック音楽会を楽しんで、又弟さんに駅まで送ってもらって東京に行ったってわけなのよ。」
「ふーん。そうなんだ。
それじゃ、良子が見たワゴン車は静香の会社の同僚の弟さんの車だったんだ。」
「そうよ。だから、私が不倫してるなんて発想は訂正してね。
まあ、礼子が教えてくれなかったらその話は一人歩きして、大変な事になっていたわね。
よっちゃんの耳に入ったらとんでもないことになってたわ!」
静香はとりあえず今の話で、礼子も納得してくれたと思ったのだった。
「静香は今も旦那の事よっちゃんって言ってるんだ。仲良いね。」
はっ!そうだった。礼子は旦那の事中学生の頃好きだったんだっけ。
「単身赴任で何年になるの?」
「え?そうね。6年になるかな?」
「1ヶ月に一度の帰宅なんでしょ?
心配じゃないの?」
「心配はしていないわ。息子の憲一を可愛がってくれるし、家族を大切にしてくれてるから。」
「そうか。よっちゃんは優しいものね。
でも、家族に優しいのは向こうで不倫しているからって事もあるから気をつけてね。」
不倫してもらいたいわよ。
まあ、一度不倫して痛い目にあったから二度としてくれないみたいなのよね〜。
礼子と結婚したら、どうだったんだろ?
多分、一緒についていったかもね。
「私ね。単身赴任の妻帯者と不倫してるの。」
「は?ええっ!」
「私さ。昼間はおしぼり配りのバイトして、夜は週に3日キャバクラしてるって言ってたでしょ?
キャバクラで、いつも指名してくれるお客様の1人がね。
青森から単身赴任していて、盆と正月しか帰らないんだって言って、今年のお盆に帰ったら奥さんが浮気していた事がわかって、先週から私の所に押しかけてきているの(笑)
でも、彼はとても優しくて私の子供にも優しく接してくれて、子煩悩でいい人でね。
北国の人だから余計に心が純粋で私も惹かれちゃってさ。
奥さんと離婚して、私と一緒になろうかなんて言ってくれて…
キャバクラに行かなくていいからって、お小遣いくれるから…今は幸せなの♪」
「え?お盆って…まだ終わって1週間じゃないの?」
「うん。実は彼とは半年前からの不倫はしていたわ。
向こうは遊びだと思っていたし、私も彼氏は欲しかったから、ちょうど良かった関係だったんだけど…
奥さんが浮気しててはね。
もう、心が離れちゃ終わりでしょ?」
「礼子の彼っていくつの方?」
「5歳大きいの。だから、包容力があって安心出来る人なの。
奥さんと離婚したら、私と子供は青森に行こうと思ってる。
東京ってさ。お金が無い人間が居るところではないから。
私は田舎が合ってる気がするの。
彼は大工のせがれなの。
父親がね。若い時は修行してこいって言われたみたいでね。
大手の工務店に入社したみたいなの。
初めは青森支店で働いていたんだけど、東京の本店に移動させられちゃったのよ。
5年間の東京勤務の約束だから、後2年こっちに居ないといけないんだけど、そろそろ跡を継がないといけない時にも差し掛かっているし、ちょうどいいチャンスだって彼も言ってるの。
だから、奥さんとの離婚を蹴りつけて私を迎え入れる約束してくれたの♪」
「そうなの。でも、彼にもお子さんはいるんでしょ?」
「子供はできなかったんですって。
本当は単身赴任せずに旦那と一緒に東京に来れた身分なのよ。
奥さんの父親が脳梗塞で倒れたのを理由にして、二人で住んでいたアパートを引き払って実家に居るからって、ついていかなかったらしいの。
でも、本当の理由は、その時から浮気していたから旦那とは行きたくなかったんじゃないのかしら?
それが離婚の答えかな。」
「そう。とにかく、礼子。おめでとう。幸せ掴んで良かったね。
それじゃ、またね。」
静香はそう言うと、電話を切った。
もう、これ以上話していると辻褄が合わない話になって、嘘がバレるような気がしたのだ。
女同士の長話は禁物だ。
静香は大きなため息をした。
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