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513. 朝の会話
『ふ〰。我ながらとっさに偽りの物語を作ったものね〰。
夏目さんを引き合いに出してしまって…
何処の誰?まで聞かれなくてよかった〰。
知ってるわ!っなんて言われたら万事休すだもの。
東京って広いようで狭いから!
夏目さんが住んでいるのは目黒だから、確か礼子も住んでいるのも目黒だったよね?
昔、茨城に住んでいて今東京で会社の同僚なんて言ったら、夏目さんしか思い出せなかったのよね〜。』
静香は偽りの上塗りをしてしまって、又旦那にいつかバレるのが心配になってきた。
『こんなことなら、初めから東京の礼子の所に泊まるのではなく、同僚の夏目の所に泊まると言っておけば良かった〰。
まあ、バレたらその時はその時ね。
また、違う手を打つわ!
今は、しらを切り通す以外に道はないもの!』
嘘で固めた話に、静香の良心の呵責に苛まれていくのだった。
静香はあまり眠れずで朝を迎えた。
カーテンを開けると雲で覆われた天気だった。
『私と同じ気持ちのような空ね。』
どんよりと曇った空を見て静香はため息をした。
洗濯機を回しながら、台所に立つと静香は
『昼は洋食レストランに行くから、朝はシャケを焼いて和食でいいかな?』
朝食の支度をしていると、母親が起き出した。
「おはよう。静香。昨日の夜遅く電話していたの?」
静香はドキッとした。
『聞かれてたのかな?』
「うん。そう。友達。」
テレビを消して話していたから、母親が起きていたら聞こえていたかも知れないと思った。
『ここは礼子と言わない方がいいよね。』
「同窓会に来なかったら会いたかったのにって、かかってきたの。」
静香は、そう言ってそれ以上は話はしないように仕向けた。
「あ。お母さん。シャケを焼くけど食べるよね?」
話の話題を切り替えた。
「ええ。今朝はシャケを焼いてもらおうと思ったから買ってきたのよ。
そのシャケを買ったスーパーで良子ちゃんにあったのよ。」
『うわ〜。話が元に戻っちゃた!』
「静香?お泊りした東京のお友達って誰なの?」
『お母さん…もしかして、全部電話の内容聞いていたのかな?』
静香は母親には昨日、怒られたばかりだったので、また、嘘の上乗りをしなくてはいけないと思うと何を話すのにも躊躇した。
「えっと。本当はね。同僚の人なの。
ほら。東京研修に1週間通っていたでしょ?
その時に仲良くなった人なの。
金曜日、臨時休業になったから泊まりに来てよって言われて…
彼女、独身なの。それでね。ノバホールで音楽会があって。彼女に誘われていたのよ。
一人で行くのが嫌だからって…
で、同窓会を蹴って同僚に会うことにしたの。
ごめんなさい。友人は同級生じゃなくて、同僚なの。」
それを聞いていた母親は呆れたような顔をしていた。
「全く。静香はいつから嘘つきになったのかしらね?」
静香は母親の言葉にドキッとした。
「なんで、初めからちゃんと本当の事を話してくれないの?
お母さん。静香に裏切られた気持ちよ?
スーパーで良子ちゃんに言われて、ホントに何も知らない母親の気持ちが静香にわかる?
お母さん。いつ泊まりに行くのを反対した?
よっちゃんにはちゃんと言ったの?
お母さんと同じように同級生の所に泊まったって言ったんでしょ?
なんで、そこに嘘を付く必要があるの?」
静香は本当の事を隠す為に嘘の上乗りをしていたのを反省した。
「ごめんなさい。話が面倒になっていくから同級生の所に泊まるって言ってしまって…
ちゃんと話せばお母さんに悲しい思いをさせなかったのに…すみませんでした。」
「もう、いいわ。お友達も疑いの気持ちを消せたのならいいんじゃないの。」
疑いの気持ち?やっぱり、私が浮気していたっていう疑いの話かな?
まあ、そうなるよね。お母さんもきっと疑っていたのよね?
「お母さんだけは信じているからね。
だから、何でも話して欲しいわ。ね?
お母さんは静香が何も話してくれないから昨日は、怒ったのよ?」
母親の言葉に胸が傷んだ静香だった。
「…わかりました。ごめんなさい。」
すると、憲一が台所に駆けつけた。
「魚焼いてるの?焦げた匂いがするよ?」
「え?ああ!」
シャケをひっくり返すのを忘れていた静香に、鼻がいい憲一が焦げの匂いを嗅ぎつけて来たのだった。
朝食は片方が真っ黒に焼けたシャケを食べることになった。
「お母さんは貧乏人なんだね。」
焦げついたシャケを見ながら静香に言った。
「え?なんで?」
「よくね。よしばあが金持ちには魚を焼かせろ。
貧乏人には餅を焼かせろっていうことわざがあるんだって教えてくれたの。
お母さんは貧乏人だから、お餅を焼くといいね!
今度からはお魚は僕が焼くことにするよ。
僕は金持ちになる素質あるみたいだからさ!」
それを聞いて母親はお腹を抱えて笑っていた。
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