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516. 虚偽の発言
朝礼が始まり、所長の話が始まった。
一人一人9月からの半年の目標を言わされていた。
静香は小松崎が何か言いに来ても、人違いとサラリと交わそうと待機していた。
ここまで来たら、誰にも飯田との隠密行動の秘密を守る覚悟でいた。
朝礼が終わり、営業マンはちらほら外に出ていった。
所長にハッパをかけられては、いつまでもフロアに残っている事は出来ない。
小松崎もこっちに来ることなく、フロアを後にした。
静香は内心ホッとした。
きっと、軽井沢ですれ違うこともなかったのだろうと胸を撫で下ろした静香だった。
静香は一安心して、所長と川井にコーヒーを淹れた。
「ふ〜。本格的に忙しくなるのは9月からだからな。
今はつかの間の準備期間だ。
全く、保険会社はやっと上半期が終わったと思ったら、下半期がやってくるんだ。
休む暇も無いよな〜。成績成績って直ぐに順番決めるの好きだからな〜。
まあ、俺が頭を抱えた小松崎君が、とても張り切ってくれているからホッとしたけどな。
金曜日は実家の長野にクロージングが3件あって、全て刈り取れたから嬉しかっただろうな。
まさか、金曜日にとんぼ返りして帰ってくるとは思わなかったよ。
川井さん。ありがとう。残業までしてくれて契約書を送ってくれて感謝しているよ!」
「いえ。当たり前の仕事をしただけです。
小松崎さんが朝早く、片道2時間半もかけて午前中2件。お昼に1件の契約をして来て、とんぼ返りして必死に頑張っているんですもの。
こっちもミスは出来ませんから。
でも、せっかく実家に帰ったのに…お母さんに茨城の名産の魚の干物と果物の梨を届けて10分も居なかったんですって。
宅配便が来た感覚しかなかったって、お母さんにがっかりされてしまったみたいですよ。
ゆっくり泊まって今日契約書は出しても良かったのにね。」
「ハハハ。小松崎君の性分じゃ、ゆっくりなんて出来なかったんだと思うよ。
普通なら今日出して、銀行振込口座をゆっくり提出すれば、下半期の成績になって スタートダッシュ部門でいい成績残せただろうけど、上半期のギリギリの成績じゃ小松崎君の男としてのプライドが許さなかったんだと思うよ。
少しでもビリから上に、上がりたかったんだと思う。」
「そうなんでしょうね。」
そんな話を所長と川井でしていたら、小松崎がフロアに戻ってきた。
「川井さん。金曜日は残業になってしまって申し訳ありませんでした。
銀行振込口座の確認してきました。
よろしくおねがいします。」
そう言うと、小松崎は書類を川井に渡した。
「はい。確かに!今月中に成立できるように頑張りますね。」
「はい。ありがとうございます。」
小松崎は川井に会釈をすると、静香の方を見て
「岡野さん?」
「は、はい。」
「岡野さんって黄色いひまわりの花柄のワンピースって持っていませんか?」
静香はドキッとした。
軽井沢に、着ていったワンピースの事を小松崎は言っていると確信した静香だった。
静香!引っ掛けられたらおしまいよ!
「黄色のワンピース?すみません。持っていませんけど…」
「そっか。それじゃ他人の空似だったんだね。
商談したレストランの離れの帰りに岡野さんに似た人を見かけてさ。
でも俺、いまいち岡野さんって確信が出来なかったから…
岡野さんだったら俺が無視してると思ったかなと心配したんだ。
声かけなくて良かったよ(笑)」
声かけてくれなくて本当に良かった〰!
二度と軽井沢に着たワンピースは着れないわ〰。
気に入っていたのに、ショック〰。
もう、本当に誰に見られてるかわかったもんじゃないわ〰。
心臓に悪いよ〰。
「それじゃ、行ってきまーす。」
「いってらっしゃい。」
何事も無かったように、爽やかに静香達の前から居なくなった。
静香は一人、胸を撫で下ろしていた。
ヘナヘナと椅子に腰掛けたのだった。
川井も所長も全く静香と小松崎の会話など耳にも入っていない様子だった。
静香の虚偽の発言だったが、今日はそれ以降は何事もなく無事に1日が終わるのだった。
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