517. 飯田とラブホ

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517. 飯田とラブホ

静香は家に帰ると、直ぐに部屋着に着替えた。 クローゼットを開けると真ん中に静香のお気に入りのひまわりの花柄の黄色いワンピースが目に入った。 静香はそのワンピースを取り出すと、綺麗に畳んでタンスの奥にしまい込んだ。 二度と着れないお気に入りのワンピース。 証拠隠滅のように奥に奥にしまい込んだ静香だった。 どこで誰が見ているかわからないこの世の中。 飯田との隠密行動が、こんなにも皆に見られていたなんて思いもしなかった静香だった。 これからは会う場所も厳選して、注意しないといけないわね。 着る服も目立つ色は買わないことにしよう。 小松崎さんにひまわりの花柄まで当てられてしまったものね。 このワンピースは目立つデザインだったわね。 ため息と一緒にワンピースも心の奥にしまい込んだ。 8月も最後の金曜日。 飯田とメールで会うことを約束した。 今日は花金だ。(花の金曜日) 飯田が隠密で泊まった旅館から手紙が来たからと、見せるからとメールがあった。 待ちあわせ場所は、静香の車を駐車した駐車場だ。 土浦駅前の自走式立体駐車場は、初めに駐車券を取って入るが30分以内に出れば駐車場料金はタダだ。 飯田の車が静香の車の右側に駐車すると、静香は急いで飯田の車に乗った。 「静香〰。会いたかった〜。時間はどのくらいあるの?」 後部座席から静香は 「うん。残業って母親に連絡したから… でも、遅くても9時にはここの駐車場に帰って来たいわ。」 「そっか。それじゃ3時間近くあるね。 ラブホ行く?」 「そうね。それが1番かな。」 レストランで食事なんてすると、また誰かに見られる可能性が高い。 ラブホでゆっくりが1番知られないと静香は思った。 ビルのラブホは避けて、林の中の昔ながらのモーテルに入っていった。 ここは1階のドアを開けると階段が直ぐ目の前にある。 1階が駐車場になっているからだ。 2階建ての6部屋が2棟建っていた。 階段を上がってドアを開けると部屋が広がっている。 「かなり古い作りだな。まあ、リフォームしているから綺麗だけど…やっぱりいつものラブホが1番だったな。」 「そうね。でも、ここからだと20分はかかるから、往復の時間が勿体無いわ。」 「そうだな。静香とイチャイチャしている時間が少なくなるのは嫌だ。 さてとご飯頼むか?」 テーブルの上に置いてあるメニューを見ると、おまかせ日替り定食と書いてあった。 「これにする?あとはカレーとラーメンしかないから。 多分、作っているのは一人なんだな。 金曜日なんて今から忙しくなるから大変だよな。」 飯田は料理人だから、他人事とは思えないのだろう。 すると、セカンドバッグから手紙を取り出した。 「宛名がいいだろ?(笑)」 隠密旅行で泊まった旅館からの手紙だった。 宛名は  飯田 尚人 様         静香 様 と、書いてあった。 静香はドキッとした。 飯田はその宛名が夫婦のように書いてあったのを誇らしげに静香に見せた。 『こんな手紙、お義母さんに見られたら終わりじゃない!』 「守に見られたけどな。夫婦として旅館に泊まったんだ。って言われちゃったけどさ。 予行練習って言ってやったんだ(笑)」 「え?そういったの?それじゃ、守さんは私達がまだ付き合ってることを知っているのね?」 「ああ。守にだけは俺達の味方だから! お袋にも言わないし、マリオにも大ちゃんにも話すことはない。 一緒に住んでいて隠し事もしたくないしさ。 俺も静香に会えない日は独りでアパートにいたら狂いそうだよ。 守がいるから平常心でいられるんだ。 たまにフェリーに乗せてくれるしさ。 相棒っていいもんだよ(笑)」 静香の肩を抱き寄せ話す飯田の笑顔を消すことなんて出来ない。 「ねえ?その手紙…誰にも見られないようにしまっておいてね? 尚ちゃんが留守のときにお義母さんがアパートに来て、物色しないとも限らないし…ね?」 静香は心配でそれだけ口にした。 「ハハハ。お袋が俺達のアパートに来ることなんて100%無いよ! でも、大ちゃん達が来ることはあるかも知れないからな。 わかったよ。このセカンドバッグの中に小さく畳んで持ってるよ。 なんか、今度来たときのためにって割引クーポン券が入っているんだ。 今度はちゃんと夫婦になってから行こうな♪」 静香は黙って頷いた。 飯田は本当に素直にこの手紙が嬉しいんだ。 私が持ってるよとは言えない。 私はその手紙を証拠隠滅のように燃やしてしまうからだ。 一緒になりたいのは静香も本当だった。 でも、静香が納得して家を出る勇気が今はなかった…って言うのが本音だった。 飯田とは遊びではない。 ただ、周りの人間が反対する中、駆け落ちしか道がないような気がして… 母親の悲しそうな顔と憲一の泣き叫ぶ涙を見たく無かったのだ。 静香は飯田と一緒になる道を行くには、前途多難な気持ちしか無かったのだ。 静香の胸の内も知る由もない飯田は、静香の唇を重ねると情熱的な飯田の手捌きが静香の体を熱くさせた。 激しく強く飯田の愛情を感じる静香だった。
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