519. 旦那に電話をする静香

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519. 旦那に電話をする静香

静香は佐藤とこれ以上話をしたくなくて、文房具店の方に歩いていこうとした。 「なあ?ウサギ?よっ子から聞いたけどさ。 欠席の理由ってよっちゃんの社宅に行かなくちゃ行けなかったのか?」 歩こうとした足が止まる。 あ~。やっぱりお母さんと会ったときの話をしてるんだ〰️。 どうしよう。頷くとおかしいよね? すでに旦那と連絡しているかも知れないし… 「それって、良子ちゃんがスーパーで母に会ったときの話を聞いたんだよね? それ、訂正しておくね。実は今生命保険の事務の仕事しているの。 研修で仲良くなった事務の子が、実家がつくば市なの。 それでね。2人でどうしても行きたいところがあってその子と約束しちゃったから、欠席しちゃったの。 お母さんには面倒だから、その事を話さないで家をでたから… 良子ちゃんにばったりスーパーで会って、同窓会休んだ理由を聞かれて、お母さんが焦って、私が旦那の社宅に行ったって口から出ちゃったんだって。 帰ってから母に怒られたけど…まさか良子ちゃんが駅前で私の姿を目にしたなんて知らなかったから… もしかして、私は変な噂になってるの?」 それを聞いた佐藤が 「なんだ。そうか!やっぱりよっ子の早とちり話か。 別にウサギが噂になってないよ。 よっ子がそんなに皆にべらべらしゃべるわけないだろ?」 いーえ!皆に話してるに決まってるわ! 良子は昔から『歩くスピーカー』って言われていたんだから! 「多分、良子ちゃんが私が男の人の車に乗り込んだのを見たのよね? その男の人は同僚の弟さんなの。 ボックス型の車でね。私は後ろの席に乗ったのよ。同僚も後ろの席にいたから。 もし、良子ちゃんに今度会ったときは、今の話が本当の事だから訂正しておいてくれる?」 なあんだ。そんな事だったのかと言う顔をして 「わかったよ。」 と佐藤は言ってくれた。 「お店に、入りましょ?」 そう静香が誘導して、2人は子供に頼まれたものを買って別れた。 静香は車を走らせながら、今回の隠密行動が全く隠密ではなかった事を嫌と言うほど思い知らされた。 逆に佐藤に会って良かったとも思った。 これで噂話もストップするからだ。 何て言っても女子のスピーカーは良子。 男子のスピーカーは佐藤だからだ。 でももう一人、今の話を事細かく言わなければならなかった人物がいた。 それは自分の夫だった。 多分、いや絶対旦那の耳に入っていると思ったからだ。 ここは田舎だ。直ぐに噂話は広まるのだ。 ましてや静香と旦那はこの田舎で『同級生同士の結婚』って事をほとんどの人が知っているのだ。 そこに噂話は尾びれ背びれが付いていく。 静香は帰ると、車の中で旦那に電話をした。 「もしもし?よっちゃん?」 「静香?電話なんて珍しいね。」 「うん。今ね。文房具店で佐藤君に会ったのよ。」 「文房具店って。学校の近くの?」 「そう。憲一が夏休みの宿題の絵を書き始めて… 黒の絵具が無くなって買ってきてあげたの。 佐藤君も子供に頼まれて来たみたい。」 「ハハハ。皆、夏休みの宿題のラストスパートだな。」 「それでね。佐藤君に変なこと言われちゃって…」 「変なこと?」 「うん。良子ちゃんが駅前で私が男の人の車に乗り込んだのを見たって…」 「え?静香は東京に行ったんだろ?」 よっちゃんは知らばくれてるのかな? 本当に知らないのかな? でも、いずれお母さんに言われてしまうから言っておこう! 「よっちゃん。ごめんね。本当は会社の研修で仲良くなった同僚の子と遊んでいたの。 同僚の子の実家はつくば市で、弟さんが車で駅まだ迎えに来てもらって、私が車に乗り込むところを良子ちゃんに見られて… 運転手が男の人だったから、同窓会では多分、私は噂の的だったらしいの。 私、お母さんには同窓会って言って家を出たから… 次の日、お母さんがスーパーで良子ちゃんに同窓会を欠席した理由を聞かれてね。 お母さんは焦って咄嗟に私がよっちゃんの社宅に行ったって言ってしまったんですって。」 「あ。それで俺に佐藤から電話があったのか。」 あ。やっぱり知ってるんだ! 「俺、着信あったの気が付いたの夕方だったから、夜、佐藤に電話したら今度は佐藤が出なくてさ。 めんどくさいからそれっきりかけてない(笑) 折り返しかかって来なかったから、別にたいした用事じゃないんだろと思っていたよ。 もしかして、佐藤のやつよっ子の話を鵜呑みにして静香が浮気している話でもしたかったのか?(笑)」 軽快に笑って静香の話を信じてくれる旦那に静香は心を痛めた。 「静香?俺は何を言われても静香を信じるからな。 でも、変な嘘だけはつくなよな? 俺は別に静香が何処の友人と遊びに行っても構わないからね。 ただ、俺だけには本当の事を言って欲しいよ。 こんな事を言う権利、俺には無いのわかっているけど… 俺さ。浮気したからわかるんだ。 静香に嘘を言ったときがあるから… 静香に嘘をつく度、俺の心は重くなって苦しくなった。 いつか知られて、愛想つかれて離婚話になったらどうしようって。 男は卑怯な生き物だよな。 自分で好き勝手な事をしているくせに、静香とは別れたくないんだよ。 もし、もしもだよ。静香に男が出来て… 憲一を置いて静香に出て行かれたら… 俺、途方にくれるから… 俺、2人の母親を背負ってなんてできないから!」 旦那の言葉に静香は固まった。
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