520. 静香の苦痛

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520. 静香の苦痛

「や、やーね。何を言い出すの? 私が憲一と母親を置いて出て行くはず無いじゃない!」 咄嗟にそんな言葉が静香の口から出てしまった。 「そうだよな(笑)静香はいつも家族を第一に考えてるもんな。 俺のお袋とも仲良くやってくれて、感謝しているよ。」 よっちゃん…感謝なんてしないでよ〰️。 そこに、車の外で仁王立ちしている憲一が目に入った。 ドンドン! 憲一が運転席のドアを叩いた。 ビックリして、静香はドアを開けた。 すると憲一が怒った口調で静香に問う。 「全く!どこまで油売りに行ってたの?」 「今、憲一のお父さんと電話していたのよ。」 「え?お父さん?電話貸して!!」 憲一は素早く静香の携帯を奪った。 「もしもし?お父さん?夏休みの宿題なんだけどさ~。 今ポスター書いてるの。 それでね。交通安全のポスターなんだけど… 車は急に止まらないって言う感じの絵を書いたの。 キャッチフレーズをなんて書いたらいい? そう!標語だよ。標語!! お父さんの知恵を借りたいんだよ〰️。」 静香の携帯を持ちながら、家の中に入っていってしまった。 「ちょっと!憲一!携帯を返してよ!」 憲一を追いかけるように、後から静香も家に入っていった。 憲一は携帯を持ちながら部屋に入ってしまった。 そして、10分後。憲一はニコニコして静香に携帯を返した。 「もう!憲一ったら!何をお父さんと話していたの?」 「標語だよ。標語! さすがお父さんだよね~。 『渡れるよ!ゆるむ心に ひそむ事故』 これで決まりだね♪じゃあね。 黒の絵具で文字を書いて夏休みの宿題は全部終わりだ~♪」 憲一はスキップしながら部屋に戻っていった。 親が考えた標語って先生わかっちゃうんじゃない? まあ、全部憲一が書いたんだから、よしとしてあげよう。 静香は口に出さずに、心で呟いた。 (後にその標語のポスターが、金賞を貰うのだった。) 静香はその夜、旦那に言われた事が頭から離れなかった。 『嘘をつくと心が重くなって苦しくなる』 まさしく私の今の心境じゃないの〰️。 布団の中で一人、大きなため息をした。 母親、同級生、旦那… 虚偽の発言しかしていない… ドンドン嘘が広まっていく… 法廷に立たせられたら…一瞬で嘘は暴かれる。 この頃、市原悦子主演の『家政婦は見た』 を静香はハマって観ていた。 夢の中で、市原悦子の覗く鋭い目つきが夢の中でも出て来て、悪夢を見るのだった。 夢の中では良子が家政婦になって、静香を必要以上につけ回すのだ。 夜中、静香はうなされて目を覚ます。 うわ〰️。ビックリした〰️。 何なの?夢の中まで良子が出てきて! 静香は気持ちを落ち着かせるようにトイレに入った。 それから台所で水を飲もうとしたら、母親も起きたのか、台所のテーブルに手をついて立っているのが辛そうに見えた。 「お母さん?どうしたの?苦しいの?」 「え?ええ。喉が渇いてお水を飲もうとして起きたら、急にめまいがして… 多分、貧血気味なのかも…こうしていると落ち着くのよ… 時期に治まるわ。」 「お母さん?椅子に座った方が楽じゃない?」 静香は母親を心配して言った。 「椅子に座ると…ダメなの… テーブルに頭を置いてしまうから、余計目がぐるぐるして…立てなくなってしまうのよ…」 「お母さん…」 母親の体を心配して、静香は主治医に診てもらった方がいいと判断した。 「お母さん?月曜日病院に行こう!」 「え?いいわよ。貧血の薬ならもらってあるから…病院なら…耳鼻咽喉科の病院に行きたいわ…」 「え?」 「よしさんが言うのよ…貧血だと思っていたら、メニエール病だったって人がいたって…」 静香はメニエール病と言う言葉は初めて知った。 「わかったわ。とにかく、何だかわからないからあそこの病院は総合病院だから、耳鼻咽喉科に診察してもらいましょう。」 「総合病院じゃなくて…耳鼻咽喉科病院で凄くいい病院があるんですって… そっちに行きたいわ…」 「お母さん…」 静香は主治医が全てデーターがわかる範囲の総合病院が、絶対いいとは思ったが… 一度違う病院で診てもらうのもいいかも知れないとも思った。 主治医は癌専門で、耳鼻咽喉科専門では無かったからだ。 『メニエール病』 明日、図書館に行って調べてみようと思った静香だった。
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