527. 憲一の気持ち

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527. 憲一の気持ち

「あら。憲一?タイミングいいわよね~。 から揚げ弁当買ってきたわよ。 手を洗って食べましょ♪」 憲一はランドセルをソファーに放り投げるように置くと、トイレに駆け込んでから、手を洗って出て来た。 「どれどれ、から揚げ弁当はタルタルソース入ってる?」 憲一は椅子に腰かけて、お弁当の蓋を開けた。 タルタルソースはちゃんと入っていた。 「お母さんはなあに?」 「お母さんは海苔カラ弁当よ。」 「なあんだ。海苔カラ弁当か~。みよばあは?」 「私のは幕の内弁当よ。憲一に半分あげるわね♪」 「やったー!」 「全く!人のおかずを欲しがるの誰に似たのかしらね?」 静香は味噌汁をよそると、テーブルに置いた。 「フフフ。多分、おじいちゃんね。 あの人もおかず食いの人だったから。 おばあちゃんはシャケとお新香食べればお腹いっぱいになるわ。 はい!憲一に後はあげるわね♪」 「ありがとう。みよばあ♪」 憲一のお陰で楽しいランチになった。 「え〰️。みよばあが自律神経失調症? それって加奈お姉ちゃんと同じ病気だね ? みよばあ。自律神経失調症にいいお料理教えてあげるね♪ 加奈お姉ちゃんにも教えてあげたんだ。 そういえば、加奈お姉ちゃん。 目の手術は成功したのかな? 会ってないから会いたいなあ。 また、お料理教室したいよ~。 お母さん?連絡つかないの?」 「え?そ、そうね。連絡してみるわね。」 まさか、自分から白石とは縁を切ったとは憲一の前では言えなかった。 「加奈子さんは竹を割ったような人だったから、おばあちゃんも会いたいわね。 そして、一緒に自律神経失調症に利く料理を作ってみたいわね。」 「わ、わかったわよ。後で連絡してみるから。」 静香はその場から立ち去るように、食べたお弁当のゴミの分類を始めた。 『どうしよう。加奈さんになんて連絡出来る訳無いじゃない! どんな顔して会えばいいのよ! 弟のチーフとちゃんと別れたのか?って言われるのに決まってる。 嘘ついたって、絶対声でわかるよ。 加奈さんって、そう言うところ鋭いから!』 静香は買い物に行くと行って、家を出ようとした。 その時、憲一が 「お母さん!買い物に行く前に加奈おねえちゃんの所に電話してよ! 今の方が電話に出るよ? だって、多分今も夜働いているんじゃないの?」 「え?わかったわよ。車の中で連絡してみるわね。」 憲一はとっさに静香が左手で握っていた携帯を取って 「お母さんはいつも、後で後でって言うよね? ダメだよ!お母さんはすぐに忘れるんだから! いいよ!僕が加奈おねえちゃんに電話するから!」 静香の携帯はロックなんてしていなかったから、電話番号を上から調べると『加奈子』はすぐに見つかった。 「ちょっと!憲一?携帯返してよ!」 もう、既に憲一は電話をかけていた。 「え?何?変なガイダンスが流れているよ?ほら?」 憲一が静香に携帯を渡すと、 『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』 「え?これって、携帯番号を変えたってこと?」 「そういうことなんじゃない? ねえ、お母さん?加奈おねえちゃんの住んでいるお家に行こうよ!」 「え?そうね。後でね。」 憲一は静香の態度に 「お母さん?お友達なんでしょ? なんで、そんな大事なことを後回しにするの? あんなに仲が良かったのに! 目を手術して、当分運転出来ないから来られないってこの間、お母さんが言ってたから 僕もがまんしていたんだよ? 電話番号まで変わって…お母さんも今まで気が付かないなんて… 喧嘩でもしたの? 尚ちゃんの事だってそうだよ! 釣りが出来なくなって、お母さんの職が変わったからもう、関係無くなっちゃたの? あんなに皆、僕達に親切にしてくれていたのに… お母さんは大事なお友達を…縁を切って行くつもりなの?」 憲一は涙をためながら、静香に食いついていた。 「憲一?お母さんそんなつもりじゃ…」 大人の事情で憲一に2人を会わせられなくなってしまった事を、心の中で謝罪した。 泣いている憲一の健気な姿を見た静香は 「それじゃ、憲一も一緒に加奈さんの所に行ってみる?」 1人では行くことは出来ないけど、憲一と一緒なら白石と話せると思ったのだ。 それを聞いた憲一は 「うん!今から行こうよ!」 そう言うとすぐに泣き止んだ。 母親に事情を説明すると、2人は白石の住んでいる場所に向かった。 白石が住み込みで働いているホテルに着いた。 ぐるりとホテルの後ろに車で回った。 静香はドキドキしていた。 飯田の事は言われるだろうからだ。 でも、まさか憲一の前では大人の事情は話さないだろうけど、怒っているとは思っていた。 『やっぱり謝罪からよね?』 裏庭に着くと、白石の車はなかった。 「ここなの?でも、加奈おねえちゃんの車は見当たらないね。」 車を停めて、裏庭の焼却炉に目をやったら知らない男の人がゴミを燃やしていた。
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