529. 急遽、朝倉のお見舞いに

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529. 急遽、朝倉のお見舞いに

「はい。交通事故ではなく、足場作業中の事故だと聞きました。 社長も知ってる通り朝倉は工務店の息子ですが、専門学校が夏休みに入ると、研修を兼ねて建設中の現場を見せてもらっていたようなんです。 一昨日、足場の足元が滑って3階から落ちたらしくて…左足を骨折したようです。」 お見舞い 「え?3階から?菊池君。私達もお見舞いに行くわ。 連れていってくれる?」 菊池はわかりましたと言ってくれて、静香は自動販売機のフラワーアレンジメントの花を買うと3人でエレベーターに乗った。 *あの頃は生花のフラワーアレンジメントが自動販売機で売っていた。 今は生花は禁止になった。花の中にたまにいる虫や花や葉っぱのアレルギーが患者にとって良くないからだ。 3階に着くと、ナースステーションに朝倉の病室を教えてもらい、部屋に向かった。 個室だった。 ドアをノックすると薫が顔を出した。 「え?社長?憲ちゃんも?みんなで来てくれたんですか?菊池君が話してくれたの?」 3人揃って部屋の前に立っていたので、薫はびっくりした。 「いや。偶然なんだ。社長は違う人のお見舞いに来たみたいで、下のロビーでばったり会ったんだよ。」 菊池の説明に静香は 「ほんと!菊池君に聞いてびっくりして。 私達も朝倉君に会わないと心配でいられなかったから!」 話が飲み込めた葵は、3人を部屋に入れた。 朝倉は包帯でぐるぐる巻きにされた左足を、痛々しそうに吊っていたのだった。 「え?社長と憲ちゃんも来てくれたの? 嫌だな~。カッコ悪いところ見せちゃっな~。」 少し、はにかみながら朝倉が言った。 「朝倉?学校遅れちゃうな。今日からホントは学校だろ?」 「全くな。試験もあるのに…全く工務店の社長の息子かよな~。 あれ?憲ちゃんも学校だよな?」 「うん。今日は給食無いから午前中だけなの。 お兄ちゃんは歩けないから大変だよね。でも、焦らずにちゃんと治してね。 良く病院で治さないと年取ってから悪くしたところがまた痛みが出るって言ってたよ。」 「え?そんなこと誰から聞いたの? お母さん?」 「ううん。よしばあだよ。僕のおばあちゃん。年取るとちゃんと治さなかった所が出てくるんだって。」 「この子、回りが年上ばかりだから(笑) 私より昔の事は詳しいのよ(笑)」 「へえ?そうなんだ。でも、日光言ったとき憲ちゃんに色々聞いてびっくりしったっけな(笑)」 静香は飯田と2人で別行動だったから、その時の憲一の事は知らなかった。 何を話したのかしら? 「そうそう。眠り猫の話だったよな。」 「楽しい日光東照宮の思い出を思い出したわ(笑) 憲ちゃんが眠り猫の後ろにスズメがいるのは徳川家康の時代の平和が続くようにって込められて彫られたんだよって言ったのよね。」 「薫もけっこう色々日光東照宮の事は知っていたから、憲ちゃんが眠り猫の象徴を知ってるときにはびっくりしたよな(笑)」 「私はそれを掘った人が国宝を受けているほどの彫刻で、左 甚五郎って人が掘った内容の方ばかり皆に話したら、憲ちゃんが 『猫の後ろにスズメがいるのに、寝たふりしている猫が家康そのもので、そんな平和が続くようにって彫り師が掘ったんだよ!』 って言うから、皆で驚いちゃったのよね~。 それは誰から聞いたの?って聞いたら、空手の先生って言ってたわよね? 学校の先生はそこまで教えてくれないから、凄い先生ね!って皆で感心してたのよ(笑)」 「へへへ。日光に行くの楽しみにしていたから、空手の先生に行く事を言ったら、眠り猫の事を教えてくれたの。 でも、お姉ちゃんにもっと詳しく色々教えてくれて、勉強になったんだ。 あのときは楽しかったね♪僕の宝物の思い出だよ♪」 病室が笑いの絶えない会話で盛り上がった。 憲一はいつもしんみりした空気を取っ払ってくれる天使かも知れないと静香は思った。 「それじゃ、私達はこの辺で。朝倉君の思ったより元気な顔を見られて本当によかったわ。 薫さんも大変だけど、未来の旦那様の看病頑張ってね。」 そう言って帰ろうとしたら 「社長。俺たち籍だけ入れちゃったんです。 薫を他の誰にも取られたくなかったから…だから、先週から朝倉 薫になったんですよ。 そして…今は専業主婦になってくれてるんだ。」 照れ臭そうに朝倉が口走った。 「え?本当!それはおめでとう。 それじゃ、この花はお祝いの花に返るわね。 あ。でも、お祝いだから、また近くに来るわね♪」 「社長。籍だけ入れただけですから。 結婚式は2年後ちゃんとやりますので、その時にお祝いして頂きますから、今回はこのお花をお祝いのお花として受けとりますね。 ありがとうございます。」 薫が2人に笑顔で答えた。 「お姉ちゃん。お兄ちゃん。おめでとう。」 憲一に言われると2人は頬を赤く染めながら2人を瞳で追って見送った。 静香が病室のドアを閉めると、部屋の中で菊池の声が良く聞こえた。 「なんだ〰️。籍入れて浮かれて滑らせて落ちたのか〰️。もう、心配して損したよな〰️。 あー。熱い熱い2人で俺も帰るわ!」 外で聞いていた静香と憲一も、それを聞いて顔を見合わせて笑った。
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