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530. それぞれの道
静香と憲一を追いかけるようにして、後から菊池がエレベーターまでかけて来た。
「社長。一緒に下まで行きましょう。
病室は熱くて居られませんから!
あーあ。朝倉に先こられた~。
一緒に結婚式あげようって言ったのにな~」
「仕方ないわ。薫ちゃんは25歳。そろそろ26歳になるんですもの。
薫ちゃんは綺麗で可愛い女性だから、会社でもモテると思うから、朝倉君が気が気じゃ無かったんじゃないの?
菊池君だって、甘奈ちゃんとラブラブなんでしょ?
甘奈ちゃんは高校生だもの。仕方ないわ。
今、2年生よね?
どう?その後、渡辺オーナーになってからのお店は繁盛してるの?」
エレベーターに乗りながら、静香が菊池に質問した。
「はい。渡辺オーナーの信頼を勝ち取って、今は俺が社長の店のお店の店長になりました。
大学は辞めました!夢は甘奈とお店を持つ事だったから!考えたら、大学行く意味なんて無かったんですよ。
渡辺オーナーはいつか、俺に全ての店を1つにして大きくしたら、任せるからまで言ってくれてます。」
「まあ!それはそれはよかったわ。あちらこちらを買い取ってお店が沢山あるから、いずれは大きなチェーン店にするのが渡辺さんの夢みたいよ。
大学辞めて、その年で店長になって、渡辺さんに任せるからまで言われたなんて、凄い信頼を築きあげたわね。
さすが、菊池君ね。」
「はい!頑張りました。これもあの時の社長の指導のお陰です!
甘奈が高校卒業したら、2人で渡辺オーナーの下で店長としてやっていくつもりです。
まずは4つの店を2つにまとめて、東店と南店の店にしてくれるらしく、俺と甘奈と各々の店長にしてくれるって約束してくれたんんです。
だから、今は仕事も恋愛もすごく充実していて面白いんですよ。」
「そう。良かったわね。結婚相手と同じ方向を向いて出きるなんて、世の中一握りしか居ないのよ。
頑張ってね。応援してるわ。」
「はい!頑張ります!」
エレベーターを降りて、玄関口に戻ると菊池と静香達は右と左に別れた。
「凄いね。お母さんのお店が大きくなっているなんてね。
お母さんのお店って、潰れたわけでは無かったんだ。
菊池お兄ちゃんが跡を取った形になったね。
それで良かったの?お母さん?」
憲一の言葉にズキンとはきたが、静香は微笑んで
「そうね。それで良かったのよ。
だって、渡辺さんはお金を沢山持っている人だから、夢もお母さんより大きかったからどんどん夢が膨らんで行く事ができたのよ。
まあ、裁量が違ったのかな?(笑)」
憲一は裁量の意味が理解できなかったけど、なんとなくだが、わかった気がした。
お母さんより渡辺さんは大物だったってことはわかった。
「日本は資本主義社会なのよ。いずれ憲一にもその事がわかる時が来るわ。
憲一も自分のお店を持ちたかったら、努力と運が必要よ。」
「努力はわかるけど、運って?」
「欽ちゃんって知ってるわよね?」
「うん。仮装大会の司会者だよね?」
「そうそう。その欽ちゃんがね。とても奥深い名言を言ったのよね。
『人生まるごと運で出来てる!』
ってね。お母さんも運なんだろうなあって思ったの。
お店持ちたいとき、自分にはお金が無かったのよ。
でも、お父さんが出してくれたの。
その後、お父さんさんはくも膜下出血で亡くなっちゃったけど…
でも、あれも全て運が私に回って来たって事よね。
そして、裁量があまりなかった私の前に裁量がある渡辺さんがやってきて、お店を買ってくれて、それもお母さんに運があったから借金地獄に陥らないですんだのよね。
憲一だってそうよ。近くの川で溺れる所を運が良かったから、大した事が無くてすんだでしょ?」
「うん。そうだね。お母さんも事故したけど、こうやって何でも無かったように生活しているもんね。
そうか~。運が全てなんだ~。」
「そうよ。毎日生活が出来ること、食べられることを感謝すると運が味方してくれるのよ。
だから、ぶつぶつ文句言う前に、全てに感謝できる人間になろうね。」
「そうだね。特にお母さんは運が逃げて行く性格だから、気をつけてね!」
「え?お母さんが?全くもう!
あー言えば」
「上祐しょ?(笑)」
静香は憲一の返し言葉に少し納得してしまい、物が言えなかった。
車に乗るとそのまま我が家に向かった。
バイパスからだと帰るのが早い。
家に着くと、憲一がみよばあに病院であったことを事細かにしゃべっていた。
「そう。色々あったのね。でも、結局加奈子さんの消息は掴めなかったのね。
でも、加奈子さんは自分の居酒屋を出すって言う夢があったから、そのうちオープンする時は知らせがあるんじゃない?
もしかしたら、サプライズかも知れないし…
両目が見えるようになったんだから、前よりもポジティブに生活していると私は思うわ。
きっと。どこかで元気にやってるわよ。」
母親の目線が憲一の後ろの窓辺から射す光を見つめながら、穏やかな顔で呟いた。
「うん!そうだね。いつか、お店をオープンしたよってハガキが届くかもね♪」
2人はそんな話をしていた。
静香は一人、2度とあなた達とは会うつもりは無いと言うことを示した結果だと思っていた。
それでいいと、静香は思っていた。
会えば、また飯田の事で揉めるから。
誰にも飯田との事は、何も言われたく無かったから、白石の事は忘れようと思った。
向こうもそのつもりで、電話を変えたのだ。
弟と言うことも、父親と言うことも誰にも告げないで身を隠したのだから…
静香はこの話は自分が死ぬまで誰にも言わずに墓場に持って行こうと決意を新たにした日だった。
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