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548. 川井の話
「う…ん。腹痛が2、3日あって休んでいたんだが、病院に行ったら子宮がんの疑いがあるとかで、検査入院しているんだよ。
まあ、子宮筋腫もあるようで、癌じゃなくても、子宮切除手術をするらしい。
来春退職だから、悪いところは取り除いてもらって新たな出発をしたいのもあるみたいだ。
だから、丸々1ヶ月休むと言っていた。
川井さんは真面目だから、有給休暇も35日残っているから、病気休暇使わなくても余るからな。
ゆっくり体を休んでもらって、円満退職させてあげたいしな。」
子宮がん?子宮筋腫を持っていたんだ。
さすが川井さんね。
産婦人科に堂々と行けるものね。
真面目な川井さんだけに、所長を騙すなんて簡単だわね。
「所長?川井さんって…旦那さんを亡くしているんですよね?」
さらに梁田は川井のプライベートの事に触れた。
「ああ。本当は離婚した次の日に社宅で心臓発作で亡くなっていたらしいけどな。
あ。これは皆にはナイショだよ。」
え?所長は川井さんが旦那さんと離婚していたの知っていたの?
「私は去年ここに赴任してきたから、川井さんの離婚の事は知らないことになっているんだ。
前の引き継ぎの所長が、保険金の受取人の書類の事で…ほら、除籍謄本が必要だろ?
そこで、離婚していた事を知ったらしいけどな。
だけど、亡くなった日の前日に離婚届していたから何も知らないことにしていたらしい。
未亡人って事でお願いするよと引き継ぎの時に言われたんだ。」
あ。そうなんだ。川井さんは誰も知らないって言ってたけど…皆、知ってて黙っていてあげたってことなんだ。
だけど疑問!
「あの。所長?離婚したのになんで旧姓に戻らなかったんですか?
どうして川井さんって結婚した名字のまま何ですか?」
「あ。岡野さんは何も知らなかったね。
川井さんは従兄弟と結婚したからなんだ。
だから、旧姓も川井なんだよ。
離婚しても変わらないんだ。」
そこに梁田が
「えー。それじゃ、夫が死んでも遺族年金貰えなかったんですね。
私はお給料と遺族年金でガッチリお金は貯まってると思っていました。
なんで離婚なんて早まったのかしら?
…やっぱり浮気が原因?」
何もかも知っている静香は黙って聞いていた。
「これは今の社員から聞いたんだが…
川井さんの所も単身赴任でね。
半年も帰ってこないなんておかしいって思って、川井さんは夫を追求することにして日曜日の朝、社宅に出向いたみたいなんだ。
そしたら、やっぱり若い女と住んでいたみたいで…
離婚を決意したみたいだよ。
詳しい話は私にはわからないけどね。」
もう、静香は川井の話を聞きたく無くなっていた。
自分達の事も思い出したのも事実だが、川井の手帳の内容を鮮明に浮かんで消えなくなっていたのだった。
梁田も同じだった。自分は3人の単身赴任の所長と不倫関係でいる。
アパートに奥さんが乗り込んで来たときに出くわしたらと思うと顔が青ざめた。
梁田の場合は奥さんに謝罪の考えはないが、会社に知れたら首になる。
それが嫌なだけだった。
「もう、川井さんの話はよします。
何か仕事が出来る未亡人の先輩と思って、尊敬していただけにちょっとショックでした。」
所長もここだけの話と念を押して、話題を変えた。
会社の話になり、11月から保険商品の予定利率が引き下がる事を所長が話した。
「やっぱりね。このままで行くと会社事態が怪しくなって来たものね。」
静香は理解が出来てなかった。
「あの。保険の利率が下がるって事は今入っているお客様の保険も下がるんですか?」
「ああ。岡野さんはまだ意味がわからないよね。
他社の保険会社も下がるんだ。
9月の末に新聞で報道される事になっている。
今から加入するお客様の保険の利率が下がるだけだよ。
利率が下がるって事は、保険料が上がるってことなんだ。
来週の月曜日に社員には一斉に報告するよ。
会社ではそういう決まりだからね。
だから、来週からの1ヶ月半は岡野さん達は仕事が忙しくなるから、頑張って欲しい。
それを見越して今日は大盤振る舞いをしたよ(笑)」
「え?」
静香の頭はクレッションマークだった。
「静香さん。保険料が上がる前に滑り込み契約が始まるからよ!
だから、いつもの倍は営業マンは契約を取ってくるわ。
頑張りましょうね!」
やっと話を飲み込めた静香は、酔いも冷めて頭が働いた。
「いつもの倍〰️。滑り込み契約かあ。
ヘルプの今日子さんがいて良かった〰️。
私1人だったらパニックになっていたわ〰️!」
仕事が楽チンは今日までだった事を知ることになる静香だった。
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