551. 梁田をホテルに連れて帰る静香

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551. 梁田をホテルに連れて帰る静香

梁田は一気飲みが効いたのか、カウンターにひじを付いて今にも眠そうなトロンとした目付きになっていた。 白石が小さな声で 「チーフは今何しているんだ?」 その一言で静香は心臓が張り裂けるほどの鼓動を感じた。 これは誘導尋問よね? 知っていると言うことはまだ付き合っていると加奈さんは思うわよね? きっと、私達を確かめているのよね? 「憲一と加奈さんの入院した病院に行ったら、私の店のバイトの子が事故で入院していた事を知って… その子の母親とチーフの母親はカラオケ仲間だったから… チーフの事はその子から聞いたわ。 なんか、今は家を出て大洗のちゃんこやで働いているんですって。 手の怪我も少しずつ回復してるって言ってたわ。」 「そっか。ちゃんと元通りに手は戻ったんだな? それは良かった。 あれ以来、どうなったのかずっと心配していたんだ。 やっぱ、他人じゃないからかな。 ちゃんと生活しているんなら私も安心だよ。 静香もちゃんと仕事探して社員になれたんなら良かったな。 ずっと2人を心配していたんだ。 だけど、私から去ってしまったから… 会えるなんて思わなかったよ。 親父さんは元気か?」 「チーフのお父さんはわからないわ。 ただ、施設に入ったってことしか…それから、どうなったのか。 店じまいしちゃたから、その先は…」 「そうだな。施設に入ったって事は、生きてるって事だもんな。 体は不自由になっちゃったけど、元気ならそれでいいよ。」 やっぱり血がひいた親子なんだよね。 弟の事も父親の事も、細い線で結ばれているだけでもいいんだよね。 でも、私はこれ以上細かい話しは二度と出来ないよ。 これ以上言ったら、今も付き合っているってバレるから… 「静香。あの時は悪かったな。」 「え?それ以上何も言わないで! 悪いのは私なんだから!」 梁田にこれ以上何も聞かせたくなかった。 多分、何を言っているのか梁田にはわからないだろうけど… これ以上の話しは感が鋭い梁田は、パズルのように組み立ててしまうから。 白石は多分、今の飯田家を人伝えの話しに持っていった静香に、今は飯田とは付き合っていないのだろうと思ってくれた気がした。 白石は後から暖簾をくぐって入ってきたお客様の相手を始めた。 「ママ。おでん1人前くれるか? ママのおでんはホント!お袋の味なんだよな~♪」 「当たり前じゃん。ここは『お袋の味 かな』なんだから。(笑)」 「ハハ。でも、作っているのはヤンキーママなんだよな~。 そのギャップがたまんないよ~(笑)」 アハハハと店内が笑い声で賑わっていた。 とうとう梁田はカウンターにうずくまって寝てしまった。 「連れは酔ったんだな。静香1人で大丈夫か? タクシー呼ぶか?」 白石は心配して静香に聞いた。 歩いて帰れる距離だったが、女性2人で夜道は危険と察した静香は 「ええ。タクシーをお願いします。」 「はいよ。わかった。」 白石はタクシーを呼んでくれた。 タクシーが直ぐ来て、外に出ようとした静香に白石が 「また、来いよな。今度は1人でおいで。 色々話したい事があるからさ。」 そう言って、静香に名刺をよこした。 「携帯番号変えたんだ。私を探すのに電話くれたんだよな。 悪かったな。何も言わないでホテルから出ていってしまって…」 静香は首を振って、暖簾に手をやった。 「ごちそうさまでした。 また、来ますね。」 静香は梁田の腕を自分の肩に回すと、フラフラしながら梁田と外に出た。 タクシーの運転手が梁田を抱き抱えて車に乗せた。 「駅前のビジネスホテルまでお願いします。 すみません。基本料金で…」 「いいえ。こんなに酔っていらっしゃるのに歩きは危険ですよ。」 タクシーはすぐに駅前のビジネスホテルに着いた。 「今日子さん?大丈夫?しっかりして!」 梁田はタクシーの後部座席に体を横にして寝てしまっていた。 タクシーの運転手がロビーまでおんぶして連れていってくれたのだ。 ロビーのソファーに寝せるとフロントの人と話をしてくれていた。 するとフロントのスタッフが 「梁田今日子さんですね?予約は受け付けています。 お一人様だけですが…」 「あ。あの、私はここまで連れて来ただけの同僚です。 ホテルのベッドに寝せたら帰ります。」 「そうですか。わかりました。それではお部屋まで連れて行きますので、ベッドに寝かせたらフロントまでお願いしますね。」 そう言うとカードキーを静香に手渡してくれた。 「運転手さん。本当にご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」 静香は千円を出すと 「お釣りはいりません。本当はそれ以上にお世話になったのですが…」 「いえいえ。とんでもありません。」 そう言ってタクシーの運転手はその場を後にした。 梁田はフロントのスタッフが抱き抱えてエレベーターで運んでくれた。 静香も一緒についていった。 部屋に着くとスタッフがベッドの上に梁田を寝せてくれたのだ。 「この先はお客様に任せますのでよろしくお願いします。」 「わかりました。私も彼女にメモを残して帰ります。 すぐにフロントに行きますね。」 スタッフはお辞儀をすると部屋を出た。
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