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554. 自宅に帰って
食事が済んで2人はレストランを後にした。
「尚ちゃん。ここから歩いて自分の駐車場に行くわ。
そろそろお昼だから誰かに見られるとも限らないから。」
「ん。そうだな。所長みたいに目撃されてもな。
ここはビジネスホテルだからな。
言い訳も面倒臭いしな。」
飯田はそのまま車に乗り込むと、手を振って静香と別れた。
静香は信号機のある横断歩道を渡ると、立体駐車場まで歩いて行った。
はカマー奈由のはさん煮なかとすせよ
静香も自分の車の運転席に座ると
「はあ~。私って大胆な女よね?
朝帰りならぬ、昼帰りだなんて!
だけど、あんな真面目な所長が…
ハハハ。私も回りから見たら真面目な女に見えるかな?
保険会社の事務員だものね。」
車の時計は11時半は過ぎていた。
このまま帰れば昼飯になる。
ホテルのおにぎりを思い出した静香は途中、総菜屋に寄っておかずを買った。
憲一のポケベルに『お昼ご飯を買った』と
入れた。
「ただいま~。」
静香はいつもの顔で玄関を開けた。
「お帰りなさい。二日酔いしてないようね。」
母親が一言そう言った。
「ごめんなさい。同僚が二日酔いしてて…
昨日は同僚はなんだかご機嫌でね。
加奈さんの居酒屋でいつの間にか寝てしまって大変だったのよ〰️。
気がついたら零時を過ぎてたの〰️。
タクシーの運転手に同僚を運んでもらって、ホテルマンに部屋まで運んでもらって…
それから彼女を介抱してあげてて…
やっと部屋に帰って寝れたのが夜中の3時だったから、起きたの遅くて…」
呆れた顔をしていた母親が
「はいはい。まあ、楽しかったのなら仕方がないわね。
だけど、よっちゃんが単身赴任で居ないからって静香は羽を伸ばしすぎよ!」
電話では怒っていなかった母親なのに、目の前の母親の顔は怒りに変わっていた。
「他人が知ったら子供がいる母親が、どんな理由でも朝帰りは決していい意味には取られないのよ?
少し、母親の自覚が足らないわよ?」
静香は図星を言われて黙って下を向いた。
すると憲一が
「わ~い。お母さんがお母さんに怒られてる〰️。」
「ごめんなさい。部屋に戻るわ。」
静香にとって、憲一が助っ人だった。
テーブルの上に惣菜を置くと、静香は部屋に入った。
「あら?静香はお昼は?」
「うん。食べてきた。」
静香は振り向きもしないで、背中を向けて部屋の襖を開けた。
パタン
静香は深い溜め息をした。
『母親の自覚が足らない』
本当にそうだと思った。そうだと頷けたけど、母親の前では黙って下を向いたままだった。
明日、私が居なくなったら母親は怒りを越して、悲しみになり、苦しみになるのかも知れない。
明日という日がいつになるのかわからないけど…
今は居なくなることなんて出来ないよ…
色んな事を考えるとまったく前に進めない静香だった。
押入れから布団を取り出すと、布団に寝転んでキャパオーバーの頭を静めるために目を閉じた。
それから何時間たったのだろう。
「お母さん?まだ寝てるの?」
憲一の声で目が覚めた。
「私…いつの間にか寝てしまったのね?」
時計を見ると夕方近くの5時過ぎだった。
「みよばあが夜ご飯の支度の時間だって!」
怒られた静香は、母親の顔など見たくも無かったが、自分が悪いんだからとしぶしぶ台所に向かった。
すると、台所に母親が何か作っていた。
「お母さん?何か作ってるの?」
「ええ。お餅をね。何か食べたくなったの。」
え?餅米は一晩水につけておかないといけないから…
昨日からお餅をつくことが決まっていたのよね?
「静香が寝ている間に全て終わったわ。
餅つきの機械の音も聞こえないくらいぐっすり寝ていたみたいだから、1人で作ってしまったわ(笑)
まあ、一升餅だから簡単だったけど…
静香もお餅でいいのかしら?」
「いいもなにも、お餅は好きだからいいわよ。」
すると憲一が、
「きな粉とアンコと納豆と海苔餅作るよ♪」
テーブルに材料を乗せていた。
「お母さんは座ってていいよ♪
僕とみよばあで作るから。
ねえ?お母さんは加奈子お姉ちゃんのお店に行ったの?
お母さんは知っていたの?」
憲一が質問してきた。
「知っていたら憲一に言っていたわよ〰️。
割烹店で食べてから、赤提灯がぶら下がっている『お袋の味 かな』って暖簾をくぐって入ったら加奈さんが着物姿でカウンターの中にいたのよ。
私もビックリよ〰️」
「へえ⤴️お袋の味?コンビニ袋の味じゃなかった?」
「それが加奈さんのおでんが人気なのよ。
焼き鳥のタレは買ってきて焼いた鶏肉につけてるんだろうけど…
お腹いっぱい食べた後だったから、『とりあえずセット』を頼んだだけだから…」
「とりあえずセットか~。加奈子お姉ちゃんの発想は豊かだからね。」
そこへ母親が
「加奈さんって…水くさいわね。
あれほどお店を出すときは開店祝いに呼ぶって言ってくれてたのに…
憲一と2人で会いに行ったらもぬけの殻で…
加奈さんに何か不都合な事でもあったのかしら?
静香?加奈さんと何かあったんじゃないの?」
静香は母親の言葉で心臓が飛び出すほどドキドキした。
芝居をするように静香は平気な顔を装って
「私にもわからないわ。携帯番号も変わっていたんですもの。」
「お母さん?加奈子お姉ちゃんの新しい携帯番号教えてもらった?」
憲一の質問に静香は
「あ。同僚が酔っ払っちゃったから、そっちが大変で聞くの忘れちゃた〰️。」
そういってごまかした。
憲一の事だ。番号教えたらきっと加奈さんとメールのやり取りをするのに決まっている。
お母さんが会社の人とビジネスホテルに泊まった。次の日お昼頃帰ってきた。
ってメールするに決まっているし、尚ちゃんとこの間釣りに行ったよ。
なんてメールされたらたまったもんじゃない。
白石の名刺は隠さないといけない。
静香は名刺を免許証の後ろに差し込んだ。
「しょうがないなあ。今度加奈子お姉ちゃんのお店に行ったら、ちゃんと聞いてきてね!」
静香は頷いて、苦笑いをした。
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