556. 所長と彼女との真実の行動

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556. 所長と彼女との真実の行動

「本社からの電話は夜行列車のキップを買う前にあってね。 部長からだったんだけど、来春の所長候補に土浦の女性の名が上がって… その名を聞いてビックリしたよ。 今の前の所長だった時の土浦の営業社員だったから。 これから所長になるための研修が始まると言って、色々力になってくれるか? って話だった。 私はもちろんですと部長には話したんだ。 それから、直ぐに彼女から電話があって、 来週にでも会おうと言う約束をして電話を切ろうとしたら、彼女が泣き出してね。 どうしたの?と聞いたら、彼女自身は所長をやってみたいと思って所長候補に立候補したら、家族にもう反対されてるって言うんだ。 それはそうだよな。彼女は独身だけど、父親は他界していて、病気の母親が居るんだ。 彼女は一人っ子なんだよ。 母親に何かあったら世話が出来ない。 所長は全国を飛び回る転勤族だからね。 やっぱり所長候補は断念します。 来週の月曜日に本社にその事を話すと言うんだ。 研修は次の日の火曜日からなんだよ。 ギリギリだけどキャンセルも出来るが、所長になるのも色々条件があって… 私が土浦の所長の時は、彼女はダイヤモンドの原石のような子だったから、断念するなんて勿体ないと思ったんだよ。 それで、私は今から土浦に向かうから会おうなんて口走っちゃったんだよ。」 え?それでホテルで待ち合わせしちゃったの? 「土浦に着いたのは10時半過ぎだった。 駅の近くの24時間開いてるファミレスで話したんだ。」 静香は土浦の所長の時の彼女との間柄が気になったが、黙って聞いていた。 「そんなに時間が無かったから、単刀直入に話をしたんだ。 君の家はマンションだったよね? お母さんを連れて転勤するのはどうだろう?ってね。 マンションは不動産を通して貸すんだよ。 賃貸料金の範囲でお母さんと一緒に転勤したアパートに住めば一石二鳥だよ。ってね。」 「それで、その人はその話に納得出来たのですか?」 静香は自分が同じ立場だったらと考えるとそれは出来ないと思ったからだ。 「いや。母親の病気の事を考えたら、病院をコロコロ変えることなんて出来ません!って言われたよ。」 そりゃそうよね。私だって躊躇したわ。 「でもね。それはそれほど大変な事ではないんだよ? それじゃ、本人が病気を持っているのにあちこちに転勤させられる人達はどうするのかな? カルテって言うものがあるのだから、病院の先生はちゃんと今度の勤務先の近くの病院を紹介状と一緒に次の先生にバトンタッチしてくれるんだよ? 精神的に先生が変わると病気が悪化する人も居るけどね。 ちゃんと病院の先生が誠意を持ってお母さんに話をすれば、きっとわかってもらえるはずなんだよ。 だってさ。考えてごらんよ。 土浦の先生の縁が切れるわけではないんだ。 バトンタッチした先生とちゃんと定期的に先生同士で話をしてくれるんだよ。 勝手に自分が転勤先で知らない病院を探すなんて事をしなくていいんだ。 マンションだって、私が信頼出来る不動産屋を紹介するつもりだよ。 転勤族はそんな悩みを越えて生活しているんだよ。 だから、怖いのは初めだけだ。 母親と一緒なら心配する必要もないから、君も笑顔で羽ばたけるだろう? って言ってあげたんだ。 そしたら、彼女の顔がパアッって明るくなってね。 母親と病院の先生と話してみます! って言ってくれてレストランを後にしたんだ。」 え?彼女はそのまま家に帰ったの? それじゃ、ビジネスホテルで見た女性は? 静香はそんな疑問が頭の中でぐるぐるしていた。 「彼女と別れてレストランを出てから、ビジネスホテルに向かったときは零時過ぎていたよ。 でも、土浦を向かう前に予約したから良かったよ。 部屋に入ってベッドにダイブしたらそのまま寝てしまった(笑) 次の朝、起きたのが10時でビックリしたよ。 なんと、フロントから電話があって目が覚めた状態だったんだよ。 フロントは11時でチェックアウトと言う。 そしてね。お客様が見えてると言うんだ。 誰って聞いたら、ファミレスで話した彼女だったんだよ。 フロントのフロアで待ってもらったんだ。 急いでシャワーだけ浴びて、フロントまで降りて行ったよ。 そして、彼女の口から母親が、娘と一緒なら転勤族の所長になってもいいって言ってくれたって言ってね。 キラキラした眼で話してくれたんだ。 それじゃ、食事でもとレストランに向かったら、岡野さんが旦那さんらしき人と食事をしていて…誤解されたら堪ったもんじゃ無いと思ってさ。 さっさとホテルを出たんだよ。 岡野さん。私は浮気をしていて嘘を言って、彼女とホテルに泊まった訳ではないんだ。 信じて欲しい!」 所長は静香と飯田がレストランに居たのをわかっていた。 だから、静香をランチの時間に誤解を解きたくて、追いかけてきたのだった。
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