560. 本当の話

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560. 本当の話

水を飲み干すと、静香は口を開いた。 「レストランで食事をしていた相手は… 旦那ではなく、彼氏です。」 友人だと言っても、梁田に通用するわけもないからと、梁田が納得できる『彼氏』と言う単語を口にした。 梁田の口角が上がり、コーヒーを口に運ぶ。 「やっと、話してくれたわね。 静香さん?初めから私は不倫していると確信していたのよ? 同じ臭いがしたし、1ヶ月に一度の帰宅の旦那さんの妻には見えなかったわ。 静香さん?あなたの体はフェロモンが溢れだしてるのよ? わからないの?」 「え?」 にやにやと静香の姿を眺めている梁田だった。 フェロモン?え?何?私の身体から何か匂いがするのかしら? 静香がブラウスの襟元をパタパタとして、自分の匂いを嗅いだ。 「やーね。何をしているの?(笑) 自分ではフェロモンの匂いなんてわからないわよ(笑)」 梁田はクスクスと笑いだした。 「甘くて色っぽい匂いが私にはするのよ(笑)」 「え?色っぽい?」 そんなことを言われたのは初めてだった。 「彼とは何処で知り合ったの?」 「え?あ。私はここに来る前は自分でお店をしていたの。 その時の従業員なの。」 静香は観念して梁田の質問に答えていった。 「それじゃ年下?」 「はい。専門学校に通っていてバイトで入ってくれました。」 梁田は驚いた顔をして 「え?結構歳の差あるのね。」 「あ。6歳違うだけです。 彼は真面目に仕事してくれました。 付き合い始めたのは3年位前です。」 「そう。それじゃ、静香さんから誘ったの?」 「いえ。彼の方から告白を受けて… 悪い事とはわかっていたけど… 情熱的な人だったから…そんな彼に惹かれてしまって…」 「そうなのよね♪惹かれあってしまったものは仕方ないわ。 多分、旦那さんよりアッチはいいのよね♪」 「え?あ。それは…」 「隠さなくても、静香さんの身体が答えてるわよ♪(笑)」 もう、静香は早く帰りたかった。 梁田の質問にこれ以上答えたくなかった。 「それで、ビジネスホテルで待ち合わせをしたのね。 駅に近いものね♪」 本当はラブホだけど、答えたくなかった静香はコクリと頷いた。 ラブホなんて言ったら、ホテルの様子を事細かく聞かれるような気がしたのだ。 「年下だけど、包容力があって背が高くて肩幅が広くてカッコいい男性なんでしょ?」 「え?」 図星を言われて 「同じ匂いがするから、私の趣味と似てるのかなあって思って。 私の彼氏もガッチリタイプで、包容力があって素敵なのよ♪ 私の場合は6歳年上だけどね♪」 ああ。青森出身の所長の話をしているのよね? 後の2人の彼氏は何処の所長なのかな? 「静香さんの彼氏と会ってみたいわね♪」 「え?」 嫌よ。そこまで好みが似てるってことは… 今日子さんの方がフェロモン出て色っぽいもの。 尚ちゃんを取られてしまうわ! 「彼は大洗の方だから…遠いから無理よ。」 梁田にとっては柏からの距離を考えた。 「大洗?遠いわね。 お仕事は何をしているの?」 言うか言わないか迷った静香は 「板前だから…裏方の仕事だからお店のフロアーにはいません。」 お店に行こうなんて言われると嫌なので、静香はそう言って阻止した。 「わあっ。カッコいいわね。 板前なんて素敵な職業。 なんか、ぜひ会ってみたいわ~♪ 強面で背が高くてピチピチしている20代なんて、静香さんはいいわね~♪」 うわ~。何か今日子さん?よだれが出そうな顔してる~。 もう!絶対に会わせたくない~! 「ねえ?来月の第一土曜日、彼氏と行くから静香さんと3人で板前の彼氏が作った料理を食べに行こうよ♪ たとえ、彼氏の顔を見られなくても構わないわ。 大洗のお店に行って見たかったのよ♪ 静香さんだって、彼氏のお店に行ったこと無いでしょ?ね!」 確かに飯田が働いている店には一度行きたかったのは事実だ。 だけど、梁田の不倫相手と一緒って… 東京の所長よね? いいの?私に紹介なんてして? 「ね!決まり!来月の第一土曜日ね。 楽しみにしているわ♪」 え?私は何も返事してないよ? 今日子さんは強引ね。 「あの。まだ彼に聞いてみないと、わからないわ。 それに、母親にも言わないといけないし…」 「わかったわ。今夜聞いてみて? 明日、返事ちょうだいね。」 静香は黙って頷いた。 そして2人は喫茶店を出て、駅に向かった。 「今日は静香さんと本当の友達になれて嬉しかったわ。 お互いに彼氏の話は2人だけの秘密ね。 所長の話は私は知らないことにしておくわ。 別にその話が本当の事でも、嘘の話でも私には興味無いから。 静香さんと関係ないなら、所長の事はどうでもいいわ。 それじゃあね。明日、いい返事ちょうだいね♪」 笑顔で梁田は静香と握手を交わし別れた。 梁田は上り方面に、静香は下り方面に歩きだした。 静香は一人溜め息をした。
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