562. 飯田副店長のおもてなし

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562. 飯田副店長のおもてなし

『ちゃんこや大洗』 飯田の働く店に着いた。 3人は暖簾をくぐり、店の中に入っていった。 個室の部屋に通された。 「わあ。床暖房の掘りごたつだわ。」 「懐がすいなあ。えではまだ掘りごだづだ。」 この頃には静香も津軽弁が少しずつわかってきた。 えではって我が家の事なのよね? そこにウエイターがノックをした。 「失礼します。」 襖を開ける手が大きかった。 襖から顔を出したウエイター。 「え?尚ちゃん?」 静香は心臓が止まりそうになった。 そこに立っていたのは飯田だったのだ。 「え?ナオちゃん?もしかしたら、彼氏?」 梁田が静香に小声で言った。 飯田は顔色を変えずに 「私はこちらの岡野さんのお店で働いていた飯田といいます。 その節はお世話になりました。 今日は私の働くお店にわざわざ遠いところまで足を運んでくださいまして、ありがとうございます。 今日はたくさんサービスさせて頂きますので、おまかせコースでよろしいでしょうか? ご予算は1人5000円とそちらの所長様から聞いております。 どうぞ、ごゆっくりと私の作った手料理をお召し上がりください。」 深々とお辞儀をすると、襖を閉めて帰って行った。 静香はその後を追った。 「尚ちゃん?」 飯田は振り向いて 「会社の人達なんだろ? 親方には昔、世話になった社長達が来るって言ったら、できる限りのおもてなしをしてやれって言われてさ。 俺…静香には黙っていたけど…副店長になったんだ。 だから、こうやって時々お客様にご挨拶するんだよ。 俺の挨拶、変じゃなかったか?」 「ううん。かっこよかった。 今日子さんが惚れちゃうくらい… 厨房だから会えないって言ってたから、びっくりしちゃった!」 「ハハハ。今日子さんって?この間、加奈子さんのお店で酔っ払った人? もし、惚れられても俺は静香一筋だからって言ってやるよ(笑)」 飯田には所長と事務員の今日子さんと3人で行くとしか話してないから、あの2人が出来てるなんて飯田は知るよしもなかった。 「後でな。ここ出たら隣で待ってろよ。 親方には、二次会は社長達と飲むので早退って話しておいたからな。 多分、俺が世話になった社長は強面の所長さんだと、ここの社員の皆は思ってると思うよ(笑) なんせ、ベンツだもんな~。 静香?所長に惚れるなよな?」 「もう!私は尚ちゃん一筋よ♪」 飯田は静香の頬をさわって、 「後で車の中でな。」 そう言うと、厨房に入っていった。 着物のようなデザインのいきな板前の後ろ姿に二度惚れする静香だった。 個室に戻ると2人がにやけて静香を見ていた。 「いや。今、彼女がら馴れ初め聞いだよ。 わんどと同じだったんだ。 仲間が出来で嬉すいよ。」 「想像以上の彼氏ね。静香さんが惚れるのわかるわ~。 カッコいいわね。」 「ん?今日子?わーよりカッコいいのが?」 梁田は頭を振って 「孝雄さんの方がカッコいいのに決まってるでしょ♪ しゃべらなかったら、ダンディー篠崎所長よ♪ ベンツ乗ってるし、今日だってスーツ着てるし、柏の佐藤所長と同じ年なんて見えないわ♪」 篠崎は照れながら笑っていた。 静香も梁田に飯田を取られる事がなくなり、安堵した。 そして、1人5000円の食事?とは思えないほど、次から次に料理が運ばれた。 「こったらに料理食わぃでほんに5000円でいのが?」 「おまちどうさま。ひっつみ鍋です。」 「いや~。懐がすいなあ。十和田名物のひっつみ鍋が~。」 「はい。所長さんは青森県十和田出身って聞いておりましたので、今日は特別私が作ってみました。 所長さんの舌に合いますかどうかわかりませんが、味見してくださいますか? こちらはサービスになります。」 飯田が最後の挨拶を兼ねて、鍋を運んで来たのだった。 「サービス?いや、わりぇじゃ。店長。」 「いえ。所長さん。今、郷土料理を少しずつ増やしているんです。 青森十和田の郷土料理は初めてなので、所長さんに味見して欲しいんですよ。 後で、アンケートにご記入して頂きたいのですが…」 飯田はアンケートを所長に渡した。 「わがった。ありがとう。」 3人はひっつみ鍋を美味しく食べた。 「水とん鍋の事をひっつみ鍋って言うのね?」 「そうだよ。このひっつみ鍋は旨ぇなあ。」 篠崎は食べ終わるとアンケートを書いた。 「岡野さんの彼氏はきっと将来旨ぇ店出すな♪」 静香も心の中で飯田の料理を自慢した。 3人は美味しい料理をお腹いっぱい食べて、 飯田に挨拶をして、店を出た。 「静香さん?どうするの?」 「あ。私は隣のお寿司やさんで待つことになってます。」 「そう。わかったわ。それじゃ私達は帰るわね。 後で、帰った時間を教えてね。 お母様から連絡あったら話合わせないとね♪」 「はい。よろしくお願いします。」 「へば。岡野さん。彼氏によろすくしゃべってけるがな。 どうもって。美味すくてあったよ。ってな。」 「はい。所長、今日はごちそうさまでした!」 挨拶をすると2人はベンツで帰って行った。 2人も何処かのホテルで泊まっていくのよね? 静香は隣の寿司屋に向かった。 「あれ?社長?何でここに?」 静香に声をかけたのは、飯田と一緒のアパートに住む守だった。
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