564. 守の涙

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564. 守の涙

「ったく!社長の前で本当の事言うなよ!」 守は2人をからかいたくなったのだった。 「尚人の本気ははじめてだもんな。 結構一途だよな。」 飯田は自分のおしぼりを守に投げた。 「そうだよ。悪いか?」 強面の飯田の顔がみるみる赤くなる。 「こんな可愛い顔する尚人はじめて見たよ(笑)」 「守?飲みすぎてないか? 無口のお前が今夜はやけに突っ込んでくるよな?」 「んー。そうかもな。今日はお前に焼きもち妬いてるかもな。」 「なんだよ?それ!」 「尚人には心配してくれる両親がいるし、本気で好きな女もいる。 俺には叶うことが無い物を皆持ってるからな。 それに何より、尚人の直球性格が羨ましいからだよ。」 守は言いながら、一粒の涙を流した。 「守…」 両親の事を思い出しているのだと静香は思った。 飯田は別れた彼女の事を思い出しているのだと思っていた。 「まあ、今夜は無礼講だな。 守もきっと俺が焼きもち妬くような人生が待ってるよ! でっけえカジキを釣って脚光を浴びる時がくるかもしれないからな! 俺は悔しくて守を妬くときが来るかもな!」 守は釣りの話で、オセンチが飛んだ。 それから釣りの話で盛り上がり、11時に寿司屋を出た。 守は2人に手を振って別れた。 2人は車に乗り込んだ。 「静香。ごめんな。随分遅くなったな。 帰ろうか。送って行くよ。」 「食事の後、所長の知ってる飲み屋で呑んだから遅くなったって言うから大丈夫よ。」 「じゃ、海見ながら静香を抱きたいな。」 飯田は静香の手を掴んだ。 静香の体はもう濡れていた。 飯田は一杯だけ飲んだビールが、静香とのエッチでアルコールが飛んだ勢いだった。 「今日の尚ちゃんの全てが素敵。」 「静香♪」 車のベッドに寝転んでいた2人にさざ波だけが聞こえていた。 飯田は静香の髪を撫でながら 「全部って?エッチの事?」 「うん。エッチは今日はいつもより激しかったから、凄く良かった。 お店で尚ちゃんが副店長として挨拶した時に、キリッとしていて二度ぼれしたの。 そして、私の頬を触って後でねって去っていく後ろ姿が…キュンキュンしちゃった。 とにかく、着物風の制服に黒いソムリエエプロンがキリリと似合って、素敵すぎ♪」 飯田は照れながら、静香の肩に手を回して抱き締めた。 「二度ぼれ?この間も二度ぼれって言われたぞ?三度ぼれじゃないの?」 「ううん。もう一周しちゃたから、二周目の二度ぼれよ。」 「二周?どこまでが一周なんだ?」 「100回で一周よ。」 「静香は可愛いな。ホント!年上かよ? 今夜は離したくなくなるぞ!」 2人は濃厚なキスを交わした。 飯田の手が静香の胸を触ってきた。 「でも、帰らないと2度と夜出られなくなるから… 続きは今度、再来週ね。」 飯田は手を止め 「再来週は土、日と連休もらえる日だ。 お泊まりコースしたいとこだが…昼間1日ラブホでゆっくりしたいな♪ 土曜日の朝、酒飲んでエッチして昼寝して、又エッチしてイチャイチャコース三昧したい。 いいかな?俺の夢叶えてくれる?」 「わかったわ(笑)凄い濃厚なコースね。」 飯田は気持ちがルンルンになり、車を走らせた。 「なあ?所長と今日子さんっていう人さ。 もしかして、出来てる?」 尚ちゃんも感は鋭いわね。 「そうみたい。でも、知らない振りしてる。 相手は所長で妻帯者だから、噂されたら飛ばされるわ。 せっかく青森から栄転して関東に来られたんだものね。 きっと努力して東北地方のナンバーワンになったから栄転出来たんだと思う。 どこで見抜いたの?」 「ハハハ。所長の顔見ればわかるよ。 俺と同じ強面の顔だから、彼女を見る目が違うんだよな。 惚れてる目だ(笑) 今頃向こうはラブホで燃えてるだろうよ。 静香は2人の脇役だろうけど、俺としては主役は静香だからな。 こんな機会つくってもらって感謝するよ♪」 「そう。それじゃ今日子さんに感謝ね♪」 「ん。守にも感謝だな。 寿司屋の暖簾をくぐる前に会ったのが、守で良かったよ。 姉貴なんていないのに、芝居してもらってさ。 でも、あの涙、別れた彼女の事を思い出していたのかな?」 「それもあるかも知れないけど…多分両親の事かもね。 若いのにどっちも居ないなんて…辛いわね。」 「そっか。お袋でも思い出したかな? 母親は守が中学生の時癌で亡くなったそうだ。 俺は高校で守を知ったから…俺は母親が死んでママ母が居るんだって話したら、親近感がわいたらしくて友達になったんだよな。 まさかさ。マリオの舎弟とは知らなかったよ(笑) マリオとは俺が中学生の頃から付き合っていたからさ。 ほら、俺は同級生とは幼く見えて話が合わなかったんだよ(笑) 大人と付き合っていたからな(笑) でもさ。兄のマリオの方が大変だったんだよ。 2歳しか違わないのに、守を守って笑顔いっぱいで笑って見せてしょげてる守を元気にさせるために一生懸命だった。 強い兄貴。包容力がある兄貴。いつも笑って悲しみを寄せ付けないようにガハハって笑う兄貴のマリオ。 きっと1人で泣いてる時もあるんだろうなあって思ってる。 そしたら、今度は父親が心筋梗塞で急死したからマリオは大変だったはずだ。 でも、いつも俺達の前ではガハハって笑っているんだよ。 男の中の男だと俺は尊敬してるよ。」 飯田の話を聞いて、静香は涙した。
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