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570. 人生色々
「あら?憲ちゃん?仲良くなったのに帰りはお母さんと2人っきりになっちゃうのね?
それならお母さんを私の所に泊めて、飲みまくろうかな♪」
「え?今日子さん?」
憲一が焦って
「え?お母さんを酔っ払いにさせちゃダメだよ!
寝たら起きないから!
今日子お姉ちゃんに迷惑かけるし、みよばあが寝られなくて病気が悪化しちゃうよ!」
ケラケラと梁田は笑った。
「嘘よ。ここんとこ飲みすぎて、憲ちゃんのおばあちゃんに迷惑をかけてるからちゃんと千葉駅でさよならするわよ♪
大丈夫よ。憲ちゃんも安心してお父さんと楽しいバーベキューをしてきてね。」
お昼は3人で、外のベンチで駅弁を食べた。
うなぎ弁当を見せつけるわけにもいかなかったからだ(笑)
余った1つの駅弁は三等分して食べあった。
そして、体育館に戻り梁田は憲一の手を握って、午後の試合を観ていた。
他の家族も皆真剣に応援していた。
私は初めて応援に来たけど…他の家族の人達はいつも応援に来ているのよね?
もう2つのコートも応援の家族が沢山いるわね。
私は旦那に寂しい思いをさせていたのかな?
キャプテンで一番頑張ってる旦那さんに応援に来ることもなかった奥さん…
やっぱり私は悪い奥さんだわね…
応援の成果か、2回戦も勝利して、明後日の日曜日は準決勝に進んで行く旦那のチームだった。
「それじゃ、静香。梁田さん。
今日は応援に来てくれてありがとう!
これから打ち上げに行くからね。
憲一は任せてもらうからな。」
「うん。それじゃ、明後日は頑張って勝利してね。」
「楽しかったです。旦那さん達も楽しいバレーをしてくださいね♪」
「ありがとうございます。」
梁田は旦那と握手した。
そして、体育館を2人は去っていった。
「お母さん!ちゃんと迷子にならずに帰るんだよ〰️!
後、道場の先生に休む事を言ってね!」
憲一の言葉に恥ずかしい思いをする静香だった。
体育館を出ても梁田はクスクスと笑っていた。
「ほのぼのとする静香さんの家族ね。
ホント!羨ましいくらいね♪
こんな姿、ナオちゃんに見せられないわね?
どうするの?静香さん?」
「え?どうするのって…」
「私は旦那さんとは冷めてる仲なのかと思ったわ。
いわゆる『仮面夫婦』だと思っていたわ。
でも違ってた。少なくても旦那さんは静香さんを心の底から信頼して、愛しているわ。
私が嫉妬するくらい仲がいいじゃない?
それなのに静香さんはナオちゃんの胸に本当に飛び込んで行けるの?
それで本当に幸せになれるの?」
一番理解してくれてるはずの梁田から、想定外の投げかけに静香は戸惑った。
「私から見たら2人は極上の男性よ?
でも、それは静香さんがあげマンだからなのよ?
最終的に静香さんに捨てられた男性は…
立ち上がることが出来なくなるくらいのショックを覚えるわ…
付き合いが長くなればなるほど…」
梁田の目には涙で溢れていた。
自分の話を静香の話にすり替えて話をしていたのだった。
公園の中を歩いていた2人は、目の前のベンチに静香は梁田を座らせた。
そして、ティッシュを梁田に差し出した。
「私もずっと悩んでいたの。
でも、愛情が違うのよ。家族愛と彼への愛は全く別なの…
所長だって今日子さんへの愛と家族との愛は別だから…
所長自身だって悩んでいると思うわ。
でも、今日子さんが彼の目の前から居なくなってしまったら…
立ち直れないのは所長の方なのよ。
だから、私だって同じよ?
違う。私はきっと…廃人になってしまう…」
静香も泣き出して、梁田の隣に座った。
2人は各々の相手の愛情を探り、紅葉している落葉樹がパラパラと落ちていく時間と一緒に彷徨っていた。
時間が経ち2人は泣き止み、ベンチの先の喫茶店に目が映った。
扉の外の立て看板に『秋のパフェ達、お待ちどうさま♥️』と書いてあった。
「静香さん?マロンパフェ。紫いもパフェですって♪ケーキもあるみたい♪
食べていかない?ね?」
泣いたカラスがもう笑っている。
静香も微笑んで2人は喫茶店に入って、秋を満喫した。
時代は平成なのに、店内は昭和そのものだった。
流れてくる音楽は『ガロ』『グレープ』の曲だった。
そして、なぜか演歌になり『人生色々』のメロディが2人の胸に刺さった。
本当に人生は色々だわね。
2人は千葉駅で握手して右と左に別れて帰って行った。
今日は相手を真剣に考える1日になった。
答えは出ているけど、家族愛がどうしても壊せない静香だった。
電車の中で夕日を眺めながら、独り涙を流す静香だった。
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