571. 憲一の怪我

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571. 憲一の怪我

次の日、憲一からメールがあった。 『タンスの中の服はつんつるてん! 今、お父さんとお店に来てるの それから道場の先生に連絡してくれた?』 つんつるてん?あ。去年のトレーナーが? そっか。子供って成長してるものね。 『先生にはお休みするって電話しましたよ。 お父さんに買ってもらってよかったわね。 今日はバレーの試合無くてよかったね♪』 『今日は打ち上げで仲良くなったのぶ君とお父さんの4人で遊びに行くの。 じゃあね。みよばあとケンカしないでお留守番していてね!』 全く!どっちが親なのかわからないメールね! 母親にメールを見せたら、ケラケラと笑っていた。 「憲一の方が大人ね(笑)」 どういう意味? まあ、笑顔の母親の顔が見れたのだから喧嘩越しにならないように黙っているわ。 洗濯物を干しながら空を見上げた。 子供は何処に行っても環境に慣れるのが早い。 憲一は私が居なくなってもお父さんと向こうでも、やって行ける子供かも知れない。 でも、お母さんをここに一人に残して出てはいけないよ。 学校の事を考えたら… 憲一の事だから、私が出て行くとき… みよばあと一緒にいるって言うわよね? そうなると憲一は私を恨むわね。 後、5年か。 憲一が義務教育を卒業したら、尚ちゃんと一緒になろう。 静香は眩しい空に向かって決意した。 次の日の日曜日の午後2時頃、旦那の車のエンジンの音がした。 「え?車で帰ってきたの?」 憲一から何も返信メールが無かったから、静香と母親はちょっと心配していた。 「ただいま~。」 あまり元気の無い憲一の声だった。 ひょこっと玄関のドアから顔を出した憲一。 なぜか左手を背中に隠して、靴を脱いだ。 憲一の後ろから旦那も入ってきて、 「すまん。静香。監督不行届だ。 憲一が怪我をして…骨には異常無いようだけど… 打撲した。」 「僕のせいで…お父さんのチームが準決勝で負けちゃったの〰️。ワーン。」 憲一が静香の顔を見て急に泣き出した。 「え?何があったの?どうしたの?」 憲一の左手は包帯でぐるぐる巻きになっていた。 それを見たみよばあが、驚いた目で 「憲一?泣いてちゃわからないわよ?」 そう言って、憲一の肩を優しく撫でた。 「みよばあ!僕、僕…調子にのり過ぎちゃたの〰️。 だから、バチが当たったんだよ〰️。」 4人はソファーに座って、話を聞いた。 「俺の社宅の隣に住む浅野さんは年上なんだけど、入社が浅くて… とりあえず会社では後輩なんだけど… そのお父さんの息子の信君も空手習っててね。 昨日は4人で公園に行って… 憲一と信君は意気投合して遊んでいたんだ。」 「信君はまだ空手をやり初めて1ヶ月なの。 だから、僕が先輩風吹かせてたの。」 静香はそれを聞いて 「あ。だから、調子に乗って空手チョップで、木でも折ろうとしたのね?」 「違うよ!お母さんはすぐに早とちりするんだから! 公園の木なんて折ったら係の人に怒られるでしょ!」 「え?じゃあ何処で怪我したの?」 「今日だよ…お父さん達がバレーボールしていた体育館の倉庫だよ… そこに瓦割り練習用のプラスチックの瓦割りがたくさんあったの。 これで練習するんだよって言って、手本見せて…結構面白かったの。 そしたら、倉庫の片隅に本当の瓦が3枚あって… 瓦は端っこが割れていたから、使った瓦だから割っても怒られないと思って… 調子に乗って割ってみたの。 そしたら、割れなくて右手が痛くて… でも信君の手前、一枚も割れないのも恥ずかしいから… 今度は左手で集中して、ちゃんと先生の指導を思い出して思いっきり割ったつもりだったんだけど… 一枚だけ割れて…そしたら、左手から血がタラタラと流れて… 信君がお父さん呼んでくれて… お父さんのチームが試合寸前なのに… 選手交代して、お父さんが病院に連れて行ってくれたの… お父さんが試合に出られなかったから負けてしまったの。 だから、僕のせいなの。ワーン💦💦」 憲一は涙が止まらなかった。 「あの瓦は空手用のすぐに割れる瓦じゃなくて、外の休憩室の瓦の余り物だったんだ。 本瓦だったんだよ。 段を持ってる人間なら本瓦でも怪我なんてしなかったろうけど… 憲一だって1年足らずで3枚の本瓦を割るのは無理なんだよ。 日曜日だから、救急病院で診てもらってレントゲンを撮ってもらったら骨には異常無かったけど、手の傷が結構深くて… 手が腫れ上がってしまったんだ。 多分、傷跡が残るって先生が言っていた。 とりあえず化膿止めの注射はしたから、傷がふさがれば大丈夫だって言ってたよ。」 泣きじゃくる憲一をみよばあが優しく背中を擦っていた。
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