572. 夜のお務め

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572. 夜のお務め

みよばあが憲一をなだめながら、部屋で休むように連れて行った。 「憲一があんなに自分を責めているとは思わなかったよ。 俺がいたって相手チームは去年優勝したチームだ。 どちらにしても負けていたよ。 別にリクレーションなんだから、気にするなって言ったんだけどな… 静香。俺、運転と憲一の怪我とか色々あって疲れたよ。 今夜は泊まって明日の朝早く帰るよ。 早めに夕食お願いするよ。」 「わかったわ。今夜はカレーなの。」 「お!いいね。それじゃちょっと一寝入りするよ。」 旦那はそういって、部屋に戻った。 夕方、日がとっぷり暮れ、ちびまる子ちゃんのオープニングテーマが流れる頃、憲一が台所に来た。 「お母さん?今日はカレー?」 「そうよ。 憲一がお腹空いて帰って来るからと思って、甘めのカレーを作ろうと思ったけど… お父さんもいるから、今夜は中辛ね。」 「うん。中辛も僕平気だよ。」 「あ。それから、今週は給食当番でしょ? 割烹着と帽子用意しておいたわよ。」 「あ。お母さん?僕…左手がこんなんだけど… 実は右手も痛いの… だから、先生に言ってもらえる? 給食当番は治ったらするって。」 「え?そうなの?あら、ホント! 拳が青アザになってるわね。」 そこに旦那が起きてきた。 「憲一?そのくらい。明日、学校に行ったら自分で先生に言いなよ。 自分の責任は自分で持つ。な?」 「あ。う…ん。わかった。自分で言うよ。」 旦那は責任と言う事を子供に教えていた。 私だったら、すぐに先生に電話をしていた。 過保護なんだなと自分で反省した。 サザエさんのエンディングテーマが流れる頃は、夕食も終わっていた。 「お父さん?お風呂入るのに包帯どうしよう…」 憲一が暗い顔で聞いた。 「そんなの簡単だよ。ビニール袋に腕を入れてテープで止めれば水は入らないから。 お父さんも昔、そうやっていたよ(笑)」 「え?お父さんも?」 「ハハハ。バレーの練習で手首や足首の捻挫や打撲をするんだ。 ヘタだからやっちゃうんだよな。 でもな。憲一? 初めはヘタで怪我しちゃうけど、一生懸命練習に打ち込めばいつか必ず強くなるからな! 怪我も勲章だからな! 頑張れよ♪憲一!」 「うん!お父さん?一緒にお風呂に入ろうよ♪」 憲一は父親に励まされて、笑顔で父親をお風呂に連れて行った。 憲一には厳しい中にも優しさがあるお父さんの存在は偉大なんだわね… 母親の私には言えない言葉や行動を、父親は持っているから… やっぱり憲一には父親は必要なんだわ… 憲一は長男だし、2人の祖母の輝く未来の星でもあるから… そっと、私は独りで消えよう。 お風呂から出てきた親子の後ろ姿を見ながら、静香は心の中で呟いた。 明日は4時頃起きなくちゃね。 旦那に朝ごはんを作らないといけないから。 静香も続いてお風呂に入った。 寝室に戻ると、旦那は起きていた。 「お風呂から出たのか? 静香、すまないな。 明日は5時過ぎには家を出るから、朝ごはんはおにぎり作ってくれればいいよ。 車の中で食べるからさ。」 「え?味噌汁作るから、家で食べて行ってよ。 カミカミ運転するのは消化に悪いから… それに、カレーならすぐに食べられるでしょ?」 「そうだな。ありがとう♪」 旦那はそう言うと、静香の布団に入り込んで来た。 「え?眠くないの?寝ないと!」 「ハハハ。なんかさ。昼寝したら寝られなくてさ。 ちょっと一汗かかないと寝られないかな。」 え?お務めしなきゃ駄目なの? 「静香。愛してる。」 旦那はいきなり静香の唇を奪うと、パジャマを脱がせて静香の乳房をしゃぶりだした。 「もう!よっちゃんは強引なんだから。」 「だって、これを逃したら2ヶ月出来ないんだよ? 試合も負けたし、憲一も怪我するし… いいこと何も無いまま1ヶ月過ごしたく無いよ。 いいだろ?」 確かにそうかも知れない… 静香はお務めと捉えて我慢した。 朝日が出ない早朝に静香が作った味噌汁とカレーライスを旦那は食べた。 「それとさ。来月は文化の日があるから3日連休だから、第1土曜日に帰ってくるね♪ じゃあ。憲一とお義母さんによろしくな。」 「ええ。気をつけてね。」 静香は笑顔で答えた。 朝5時過ぎに旦那は自宅を出た。 今日は月曜日。 静香は雨戸を開けて、うっすらと空が明るくなって行くのを眺めていた。 来週は飯田に会える。 そう思うと心が弾んでいくのを覚えた静香だった。 「さあ!今日も頑張って行こう」
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