574. 今日は飯田とデート

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574. 今日は飯田とデート

土曜日の朝。 「それじゃね。行ってきます。 憲一をよろしくお願いします。」 梁田の所に遊びに行く話を信じている家族に対して、後ろめたさは感じながら玄関に立つ静香だった。 「夕方までには帰るのよ?」 「わかってます。もう!子供扱いの目線なんだから。」 「みよばあから見たらお母さんは子供じゃん! お先に~。」 憲一が空手道場に行くのに玄関の扉を開けた。 「え?憲一?怪我は大丈夫なの?」 「うん。今日はウォーミングアップだよ。 誰かと練習相手は出来ないけど、基本の練習はできるから。 このくらいの傷なんて大した事じゃないよ。 昨日、主将にかつ入れられたの(笑)」 「え?主将って?」 「うん。尚ちゃんだよ。ポケベルでメール入れたら電話くれたの。 主将はあばら骨を折った翌日に練習してたんだって。 そのくらいの傷なんて舐めれば治るって。 精神統一すれば痛くないって。 そのぐらいの覚悟で練習しないと強くなんてなれないって。ね!じゃあね。」 玄関を出ると走って道場に向かっていった。 いつの間に尚ちゃんと… 私は聞いてないわ。 メールでやり取りしてるから、ホント!下手なこと言えないわね。 静香も車に乗ると約束の場所に向かった。 今日は大洗の近くの駐車場に車を停めた。 既に飯田は来ていた。 直ぐに飯田の車に乗り込むと 「尚ちゃん? 昨日、憲一と電話で話したの?」 静香は気になって飯田に問いかけた。 飯田はエンジンをかけながら 「ああ。旦那のバレーボールの試合を親子で見に行ったんだって? その時に空手用の瓦じゃなくて、本瓦を3枚重ねて割ろうと思って怪我したって聞いたよ。 それで、憲一がどうしたら手が痛くなく割れるのか?ってメールがあってさ。 だから、一に練習。二に練習!って。教えてやったんだよ。 精神統一は練習以外に出来ないからな。 痛さに怖じけずいたら空手は上手くなれないから。」 走り出して運転する横顔を見た静香は、いつもより凛々しい顔の飯田を見惚れていた。 「ん?なんだ?俺の顔に何かついてるか?」 「ううん。尚ちゃんが空手を語る横顔がカッコいいって思って… 10回目の3度ぼれよ。」 飯田は照れながら 「ハハハ。10回目は良かったな。 さてと。今日は何処のラブホに行こうか?」 「何処でもいいわよ。こっちの方はラブホなんて何処にあるか知らないもの。 尚ちゃんが決めて。」 「わかった。それじゃ海の見えるラブホにしよう。 ちょっと遠いけど、デートはドライブにしようか。」 海岸線を走ると、海が冬に向けて深い青に染まっていた。 「大洗って、夏の海と全く違う深い青なのね。 波も高いし、冷たそう。」 「うん。そうだな。秋から冬にかけて黒潮が流れて来るからな。 今からは脂がのったサンマやイワシ。 来月からはアンコウもとれる。 今年の冬はアンコウの吊るし切りを教えてもらえるから楽しみなんだ。 来年3月にアンコウ祭も開催されるらしい。」 「え?アンコウ祭?」 「ああ。商工会で開催するみたいだ。 憲一も連れて遊びに来いよ。 待ってるからさ。」 「ホント!うん。わかった。」 そんな話をしている内に、ラブホに着いた。 白い洋風的な建物のラブホの向こうに海が見える。 ここの風景だけ海外に来たような雰囲気で素敵な所だった。 「素敵な所ね。尚ちゃん?来たことあるの?」 「俺が違う女と来たところを静香を連れて来るようなヤボな事はしないよ。 マリオから教えてもらったんだ(笑) 彼女と先週行ったらしい(笑) 実は昨日は店が早く終わって、守を車に乗せて、大ちゃんがバイトしている雀荘に行ってさ。 マリオも後から来て朝まで4人で麻雀してたんだ。 今頃はマリオの自宅で3人で爆睡してるんじゃねえ(笑)」 「え?それじゃ徹マン?尚ちゃん?寝てないの?」 「ハハハ。今から寝るからいいじゃん。 まあ、寝るのは静香を食べてからだけどな(笑)」 なんとなく、ベッドで横になったらそのまま寝てしまうんじゃないの? そんな静香の予感は的中する事になる。 ホテルの中に入ると静香はバスルームに向かって蛇口をひねった。 「大きくてまあるいお風呂ね。 水の出はいいけど…たまるのに時間がかかりそう…」 壁が海の中にいるようなイメージのデザインで、地中海のエメラルドグリーンの綺麗な壁紙だった。 「静香。こっちにおいで。」 飯田は静香を手招きしてベッドに誘った。 ベッドの枕元の上に小さな窓がある。 そこを覗くと海が見えるのだ。 まるで絵画の海の絵のような空間だった。 「素敵ね。」 「ここは良いところだな。 一発で気に入ったよ。また、来ような♪」 「そうね。眠気にコーヒー入れるわね。」 「ああ。」 静香がコーヒーを淹れてベッドに横たわっている飯田を見ると、既に爆睡していた。 「尚ちゃん?お風呂も沸いたよ? コーヒー入れたけど?尚ちゃん?」 静香がいくら話しかけても飯田はぐっすり深い眠りに入っていた。
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