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580. 旦那との寝室での会話
お風呂も入り終わって、静香達の寝室では
「よっちゃん?今のお仕事は営業回りになったの?
工場の係長じゃなかったの?」
旦那は煙草をふかしながら、
「工場の中でも働いてるよ。
役割は係長そのままだよ。
ただ、新人の教育は終わったし、今は仕事を待っているだけじゃ駄目なんだ。
工場長と一緒に営業に歩いているんだよ。
鉄筋パイプの製造が主だけど、色んな形の鉄筋を今は色々作っているんだよ。
会社によって注文が違うから…
向こうの会社の人達と会議をしながらもの作りに徹しているんだ。
それが売上向上に繋がっているんだよ。
少しずつ、会社の内容が変わって来ているんだ。
向こうの会社の人達が工場見学に来ることも多々あるんだよ。
だから、俺は本当の意味でパイプ役なんだ。」
煙草を灰皿で消すと、旦那は静香の顔を見た。
「それでさ。先週の土曜日は会社の人の所に遊びに行ったんだよね?」
急に旦那に言われて静香はドキリとした。
「え?そ、そうよ。
バレーの試合を一緒に見た今日子さんのアパートに遊びに行ったわよ?」
旦那の目は疑いの目だった。
「実はさ。金曜日に工場見学に来てくれた社長と専務は愛知県の人でね。
千葉のビジネスホテルに泊まって朝一番で羽田に送ったんだよ。
俺が運転でね。工場長と2人で…
空港で愛知県の社長達に挨拶して別れを告げたとき、その今日子さんって人らしき人が彼氏らしき人と空港の待ち合い席に座っていたんだよ。」
静香は焦った。まさか旦那が羽田空港で梁田に会うなんて夢にも思っていなかった。
静香は咄嗟に嘘の上乗りをした。
「え?そうなんだ。
今日子さんね。彼氏が沖縄に出張で行くから空港まで見送って来たって私に言ってたわね。
私は今日子さんとお昼頃会ったのよ。
そ、それでよっちゃんは今日子さんと話をしたの?」
梁田に旦那と会ったことなど話に出ても来なかったから、きっと旦那だけが気付いたんだと確信していたから、静香はそう言った。
「いや。帽子をかぶっていたし…人違いかも知れないと思って…
やっぱりあれは今日子さんって人だったんだ。
俺の記憶に間違いはなかったんだな。
声をかければ良かったな。そうか~。
彼氏を見送って一緒にいたんだ。」
とりあえず静香の話を本気にしてくれて、胸を撫で下ろしてホッとした。
旦那が静香の布団の中に手を忍ばせてきた。
「静香が浮気なんてするはず無いのにな。
ちょっとあの時疑ってしまったよ。
静香に電話をしようと思ったら、静香から電話があったのはびっくりしたよ。
お義母さんの入院の話だったから、あの時聞きそびれてしまった。
でも、静香をちょっとでも疑って後悔したんだ。
ごめんな。」
静香の布団に潜って来る旦那に静香はそう言われて、拒否など出来なかった。
あの時電話で今日子さんと空港で会ったけど静香は嘘をついたのか?
何処に本当はいたんだ?
誰と会っていたんだ?
…なんて言われたらきっと今夜みたいに言い訳が考えられなかったと思った。
「静香。愛してるよ。
お義母さんの入院の間、一人で介護することが多いだろうけど…ごめんな。
よろしく頼むよ。」
旦那は静香の唇を奪う。
胸を優しく揉んでくる。
旦那は何も言わずに、ずっと一週間もんもんしていたのだ。
本当は飯田と浮気をしていた。それも1日ラブホにいて…
静香は謝罪のつもりで旦那に抱かれた。
次の日。
憲一はいつもより早く起きてきた。
「ねえねえ。お父さん?
墓参りしたら何処にドライブに行くの?」
憲一はバレーの試合から怪我して帰ってきて、ずっと楽しい事がなかったから今日はワクワクが止まらなかったようだ。
「うん…お楽しみ~!だな。
秘密にしておこう。その方がずっとワクワクしていられるからな♪」
「え〰️。教えてよ〰️。」
「お父さんもわからないんだよ。
風まかせ〰️風まかせ〰️♪」
母親も笑顔で起きてきて、朝ごはんは昨日のカレーを食べた。
洗濯物も干して、4人は墓参りに出掛けた。
母親は墓掃除を始めた。
憲一はバケツに水汲みに何度も足を運んで手伝ってくれた。
ピカピカになったお墓に皆で手を合わせた。
次に旦那のお父さんが眠る墓に行くと、綺麗な菊の花が添えてあった。
「お袋が咲かせた菊の花だ。
そうか、昨日は親父の祥月命日だな。」
その菊の花を見つめていた母親が
「菊の花。黄色い菊と赤っぽい菊の花を緑化木センターで買いたいわ。
育て方はよしさんに教えてもらうわ。
それと、花壇にビオラを植えて、冬を待ちたいわね♪」
えっ?構わないけど…私が世話をすることになるのね?
静香はまた仕事を増えるのが面倒だった。
「静香も花に水をあげたり肥料をあげたりしていると、きっと花が好きになるわよ♪」
静香の胸の内を知っていたかのように、母親は笑った。
「私は寒い冬に綺麗に咲いてくれてて、春を教えてくれるビオラが好きなのよ。」
母親の花好きの話は止まらなかった。
もう、あの花この花を思い出しては緑化木センターで買いたいようだった。
でも、少しの間でも、病気の事を忘れて笑顔で語る母親の顔を見て、頷いていた静香だった。
母親の前では笑顔でいよう。
その時ほどそう思った事はなかった。
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