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581. 母親の小さな幸せの1日
「ねえ。みよばあ!見てみて!ここを曲がると海浜公園だよね!」
助手席に座っていた憲一が窓の外を指差した。
小学1年のときに遠足で来ていたから、憲一は覚えていたのだ。
「お父さん?海浜公園に行くんだね?」
「う…ん。そうかな?どうだろう。
風まかせ~♪風まかせ~♪」
旦那がこの期に及んでまだシラを切っていた。
海浜公園の入口に来て
「憲一の当たり〰️♪海浜公園でお花をいっぱい見ような♪
乗り物もあるし、お昼もここで食べようか!」
「うん!嬉しい~。みよばあが好きなお花畑だね♪」
憲一がみよばあの手を引いて歩いた。
現在なら鮮やかな赤色の見事なコキア畑が一面を彩る風景が眺められるが、あの頃はコキアはなく、コスモス畑と秋のバラ園で賑わっていた。
母親は笑顔で
「コスモス畑が見事ね。秋って感じだわ。
もみじも紅葉してるわね。
よっちゃん、ありがとう。秋の季節の見納めが出来たわ♪」
旦那も笑顔で
「最後に皆で観覧車に乗りましょう。」
観覧車に乗ると海浜公園の一面が見渡せる。
海も見える。とても天気が良いから、遠くまで眺める事が出来た。
観覧車を降りると旦那が
「静香?公園内のレストランはお義母さんの食べるものが無かったから、ここを出て阿字ケ浦の寿司屋にでも行こうか?」
静香も頷いて
「そうね。油っぽい食べ物しか無かったわね。
雑炊も無いし、ドリアも無いしね。」
「僕も賛成!本場のお寿司食べたい!」
「憲一?本場のお寿司って言うか、とびきり新鮮なくるくる寿司だよ?
寿司職人がカウンターで、一貫ずつ出してくれる本場の寿司屋には高くて連れて行かれないよ(笑)」
憲一はちょっとガッカリしたが、とびきり新鮮なくるくる寿司と聞いて、目を輝かせた。
車を走らせてすぐに着いたくるくる寿司店。
値段が皿の色で違うから、全てネタが大きくて新鮮で美味しそうだった。
デザートのケーキも回っていた。
「うわ~。ネタが普通の100円寿司の2倍の大きさがあるね♪」
店に入るなり、憲一はくるくる回る寿司の前で声を出した。
「坊主!ここのはさっきまで生きていた魚を裁くからスッゲエ上手いぞ!」
隣で寿司を食べていた生きの良いおじさんが、憲一の話に声をかけてくれた。
「憲一。座って食べましょ♪
お父さんが何でも好きなお寿司食べていいってよ♪」
くるくる回る寿司の前に4人は揃って座った。
見たことが無いようなネタの大きさに、4人は舌鼓を打って食べた。
今日の母親は顔色も良く、終始笑顔だった。
中トロばかり食べていた。
「静香?ビール飲んでいいか?
帰りは運転頼むよ。いいよな?」
静香は頷いた。
ここからなら帰り道もわかるし、緑化木センターの行き方もわかっていた。
旦那が奢ってくれるのだから、帰りくらい運転してあげようとも思っていた。
寿司屋を出たのは午後2時を少し回っていた。
旦那はビールの中ジョッキーを3杯も飲んで、ほろ酔い気分で車の助手席に座った。
静香が運転を始めると、旦那は酔っていたせいかすぐに眠ってしまった。
緑化木センターに着いたのは、走り出して1時間過ぎた時だった。
「よっちゃん?着いたよ?よっちゃん!」
旦那は酔っ払ったのか、全く起きる気配は無かった。
「静香?寝かせてあげましょう。
私の為に緑化木センターに来てくれたんでしょ?
私が降りればいいんだから。買うのは私だし。ね?」
旦那はそのままに寝かせておいて、3人でお店の中に入って行った。
歩くのが疲れるほど広い緑化木センターだ。
母親は色とりどりの花を見ては、色々買いあさっていた。
「え?ビオラをこんなに買うの?
菊の花も?こんなに?それと、これって葉牡丹よね?」
色んな花を30鉢も買い物用の押し車に乗せていた。
「いいのよ。明日は日曜日だから、お天気も良さそうだし花壇を作るから♪
お水は静香に任せたわね。
ちゃんとからさないで育ててね。」
え〰️。私は毎朝なんて出来ない〰️!
ぼやく静香に憲一が
「みよばあ!僕が学校から帰ったらお水をあげるよ。
お母さんは寝坊助母さんだし、土日はみよばあの所に行くんでしょ?
だから、僕が水かけ担当になるよ!ね?」
可愛い孫の水かけ担当の出現で、みよばあの顔が笑顔になった。
「憲一はホント!可愛い孫ね♪
娘は外したけど、孫は当てたわ♪」
全く、誰のためにここまで来てあげたのよ!
娘は外したって?聞き捨てならない言葉ね!
「お母さん?怖い顔してみよばあを睨んでるのなんておかしいよ!
そんなことだから、外した娘なんて言われるんだよ?」
息子にまで言われて、静香はショックだった。
「ひど〰️い!なんなの?2人して!
お母さんの何処が外れているのよ!」
母親はクスクス笑いながら
「静香は直ぐ顔に出るからよ。
お花の世話なんてしたくないって思ってるのでしょう?
大丈夫よ。これから寒くなるからそんなにお水はいらないわ。
ただ、一週間は毎日お水はあげて欲しいわ。
土に馴染むまではね。
それと、ビオラも葉牡丹も一年草なのよ。
菊の花は多年草だけど、来年花を咲かせるには結構大変な花だから…
今年だけ見られればいいと思う。
菊の花は明日しか私は見られないけど…
退院したらよしさんに聞いて、来年咲かせられるようにするのは私がやるから大丈夫よ。
静香を外した娘なんて言ってごめんなさいね。
私と全く性格が違うから…
お父さんに似たのね(笑)」
そんな話をしながら、会計を済まし駐車場に戻ろうとしたら旦那が駆けつけてくれた。
「起こしてくれれば良かったのに!」
静香はあきれ顔で
「どんなに揺り動かしても起きなかったの!」
「え?そうなのか?悪かったな。
お義母さん?たくさん買いましたね♪
俺が押しますよ。」
がらがらと押し車を押し出すと、アイスクリームの看板が憲一の目に止まった。
「憲一?アイスクリーム食べたいの?
おばあちゃん買ってあげるわ。
皆も食べるわよね?」
母親が4つアイスクリームを買ってくれた。
近くの椅子に座って皆で食べた。
母親にとっては今日は素敵な1日だった。
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