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582. 入院前の日曜日
翌朝、母親は朝早く起き出し花壇作りを始めた。
旦那が母親が外に出た音を聞き逃さず、自分も外に出た。
静香は日曜日なんだからゆっくり朝寝坊したかった。
「なんだ。7時前じゃない?
もう!2人とも早起きなんだから!」
静香もしぶしぶ起き出した。
外からうるさい狩り払い機の音がした。
廊下のサッシの窓を開けて、旦那に向かって声をかけた。
「え?よっちゃん!草刈りしてくれてるの?」
狩り払い機の音がうるさくて、旦那の耳には静香の声が聞こえなかった。
そこへ、母親が静香に近づいてきた。
「よっちゃんが花壇を作るのに草だらけでは、せっかくの花が映えないねって言って…
良かったわ。よっちゃんが帰ってきてくれて。
静香に言ったら口を尖らせて嫌な顔するものね。
本当は先週草刈りして欲しかったわ。」
え?…土曜日は飯田とデートだったし、
日曜日はお母さん自身が具合悪くてそれどころじゃなかったじゃない!
草刈りなんてしたら次の日病院連れて行けなかったかも知れないし!
よっちゃんの点数稼ぎよね。
私は損な役目ね!
でも…旦那が何でもやってくれて感謝しないとね。
自分がやらないで済んだんだからね。
憲一も起き出して
「お父さんが草刈りしてるの?
あ!みよばあがお花植え替えしてるんだ♪
僕も外に行くね。
お母さん?朝ごはん出来たら呼んでね♪」
憲一は玄関から靴を手にして、縁側から外に出ていった。
え~。皆で外に行ったの?
朝ごはんって…パンがあるから…
サンドイッチでも作ろうかな?
それと、オニオンスープも作るか。
今日も秋空の綺麗な晴天だった。
静香はたまには縁側で食べようかと、廊下に座布団を運んだ。
狩り払い機の燃料はだいたい1時間で空になる。
静香は8時ちょっと前に燃料を入れに縁側に来るのを逆算して、朝食を用意し始めた。
おしぼりをレンチンして、温かくした。
「朝ごはん出来ましたよ!」
ちょうど燃料がなくなって、狩り払い機が止まった。
「よし!休憩するか。」
母親もゴム手袋を外した。憲一も外の水道で手を洗った。
「あら?温かいおしぼりなんて、静香にしたら気が利くわね♪」
母親はおしぼりを手に取ると、顔を拭いた。
「ハハハ。顔も洗わないで草刈りしちゃったな。」
「うん!僕もね♪気持ちいい~。」
「サンドイッチを作ったの。
あと、オニオンスープとね。」
3人は縁側にひいてある座布団に座った。
4人で縁側に座って、庭を見るのは初めてだった。
「お母さんはお花を全部地植えにしたのね。
れんがを花壇にうまく使ったのね。」
「そうよ。腐葉土の作り方はよしさんに教えてもらったから。
広く、素敵な歌壇を作れたわ。
よっちゃんと憲一のお陰ね。」
「花壇のお水当番は僕がするからね♪」
母親は笑顔で憲一の頭を撫でた。
「憲一はお父さんに似て気が利く子ね♪
おばあちゃんの自慢の孫よ。
ありがとう。」
静香は母親の言葉に少し刺があるような言い方にちょっと傷ついたが、何も言わず黙って微笑んだ。
「静香?こっちの草刈りが終わったら、実家の草刈りもやって来るよ。
向こうは広いから憲一も連れていくよ。
草をまとめてくれると助かるから。
憲一?いいよな?」
憲一はまたお手伝い?と思って少し返事をためらった。
「よしばあがお小遣いくれるかもよ?」
静香の一言で憲一は頷いた。
それから母親は少し横になると言って、部屋に戻っていった。
旦那と憲一は義母の家に向かった。
静香も洗濯を済ませると自分も部屋でくつろいだ。
明日から母親は入院生活が始まる。
静香は母親の抗がん剤の治療がどんなものか全く予想が出来なかった。
テレビのドラマや芸能人の癌の報道を見ていると、副作用での吐き気やめまいが凄い話は聞いていた。
タオルを多めに持っていく準備を始めた。
静香は亡き父親が見守ってくれると信じ、家族で明日を待つ1日だった。
母親が一番心配しているだろう事は良くわかった。
仏間からお線香の匂いが静香の部屋まで漂った。
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