585. 母親の入院2日目

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585. 母親の入院2日目

次の朝。 「静香。俺は明日から仕事だから、憲一が学校から帰ってきたらバトンタッチして社宅に戻るよ?」 旦那が歯磨きしながら静香に言った。 「ええ。憲一とバトンタッチじゃ助かるわ。 洗濯物を取り込んで、夕飯何か買ってきてくれるともっと助かるけど。」 「僕、ケンタッキーフライドチキンのセット! お母さんが遅くなってもそれ食べてお風呂沸かしておくよ♪」 憲一が2人の話を聞いて口を挟んだ。 「憲一はケンタッキーが好きだな? まあ、わかったよ。お母さんの分も買ってくるよ。」 「ありがとう♪お父さん! 嬉しいなあ♪それじゃ僕は帰ったら、花壇に水をまいてお風呂の掃除をするよ♪ じゃあ!行ってきまーす!」 憲一はそう言うと、元気良く玄関を開けて出て行った。 「じゃあね。よっちゃん。私も行ってくるね。 お留守番お願いします。 社宅には気をつけて帰ってね。」 「ああ。わかったよ。」 静香も車のエンジンをかけると、母親の病院に出掛けた。 病院に着くと、もう、抗がん剤治療は始まっていた。 「お母さん?苦しくない?大丈夫?」 点滴に抗がん剤を投与しての治療とは聞いていたから、副作用を心配して静香は聞いた。 「ええ。別に今のところは何とも無いわ。 看護師さんが一週間このお薬で試すって言ってたわ。」 母親の落ち着いた態度に静香はほっとした。 ここは4人の相部屋の病室。 3人は既に抗がん剤治療が進んでいた。 1人は明日退院のようだ。 2人は髪の毛が無いのかバンダナをかぶっていた。 母親も退院する頃は髪の毛が無くなるのだろか。 母親は入院する前に美容室に行って髪を短くしていた。 昔から髪は短くパーマをかけていた。 その髪の毛を更に短くカットしてきたのだ。 「娘さん?」 母親のベッドの真向かいのバンダナをかぶっていた50代位の女性に声をかけられた。 「ええ。2人娘の長女の方。」 母親が静香を紹介していた。静香はペコリと頭を下げた。 「始めての抗がん剤治療は髪の毛が抜ける人はほとんどいないから安心して。 関根さん以外は急性ではなく、慢性なのよ。 だから、私は3回目の入院だから… どんどん髪の毛が大量に抜けて…もう、ショックで鏡を見るのが怖くて怖くて… 眉毛もまつ毛もうぶ毛さえ無くなるのよ。 でもね。考え方を変えたの。 髪の毛はまた、生えてくる。自分の命と引き換えに髪の毛が命を経ったのだと。 そして、髪の毛が再び甦る。 その時が本当の自分に帰るのだって。 そして、また寿命を足してもらえたのだってね♪ 慢性白血病はそれの繰り返し。 関根さんは急性だから、一回で終わりよ。 吐き気は、そうね。個人差はあるけど… 二三日後に出る人もいれば、全く出ない人もいる。 その代わりめまいが酷かったり… 副作用って皆、違うのよ。 あまり、周りの情報に振り回されないほうがいいわよ。」 それを聞いて母親はコクリと頷いた。 静香は白血病に慢性もあるのだと知った。 これ以上、母親を何度も入院退院の繰り返しはさせたくなかったから、早めの対応で良かったと思った。 ただ、今年癌手術をしたばかりだったから、内臓が無いものもあったから… 副作用がどんなものか、母親も静香も普通の人とは違っていたから不安は人一倍ではあった。 午前中の点滴が終わるともう、昼食だった。 静香はお弁当を持ってきていた。 旦那と2人分朝作っていたのだ。 母親は副作用がまだ出て無かったので、2人でランチルームに向かった。 母親の食事も普通のご飯だった。 おかずは消化のいい煮魚だった。 「本当。昨日の豪華な食事とは全く違うわね(笑)」 母親の笑顔が出て静香は嬉しかった。 「え?昨日は何が出たの?」 「三色弁当よ。ほら、花見なんかで食べるようなお弁当。 ここの病室で作った食事じゃなくて、お弁当屋さんから取り寄せたみたいなお弁当よ♪ 夜はローストビーフと温野菜とスープとパンだったわ。」 「え?凄~い。それじゃ美味しかったでしょ?」 母親が笑いながら頷いた。 「病室の皆が最後の晩餐ね。なんて言ってたわ。 ホント!そうね(笑)」 2人は窓際のテーブルで静香もお弁当を広げて、笑顔で食べる事が出来た。 午後もまた3時間もかかる点滴が始まった。 夕方には母親の顔色も悪くなっていった。 「静香。看護師さんを呼んで… なんかめまいがするの。」 抗がん剤の副作用が始まったのだ。 「関根さん?めまいがするんですか?」 看護師は直ぐに来てくれて、母親に言葉をかけた。 「ベッドがぐるぐる回っているような…」 「それじゃ、今日はこの点滴で終わりにしますね。後、10分で終わるから我慢してくださいね。」 母親は目を閉じて頷いた。 今日は終わりに?って事は本当は夜もあったの? 静香は抗がん剤治療がどんなものかわからなかったから、不安になった。 その日は看護師が持ってきた薬を飲むと、母親はめまいが治まり、静香も安心して帰宅することが出来た。
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