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586. 妹との会話
次の日。
旦那は昨日、憲一が帰って来ると社宅に戻ったから静香も一人になり忙しくなった。
「お母さん。今日から僕一人でお留守番だね。」
「そうね。サンドイッチ作ったから、冷蔵庫に入れとくわ。
おやつ代わりに食べてね。」
静香はサンドイッチを作りながら憲一に言った。
憲一は作っているサンドイッチを1つ摘まむと
「今、食べるよ。朝飯~♪」
「もう!朝はシャケ焼いたのよ?」
冷蔵庫に入れようと思ったサンドイッチを憲一に食べられ焦って言った。
「だったら、シャケは夜食べるよ。
その方が夕食らしいよ。おやつ食べたら夜は?
お母さんは夕方、帰ってくるの?」
母親の昨日の夜の姿を思いだし、返事に困った。
「それじゃ、お母さんが遅くなる時は冷凍室のカレー食べててくれる?」
憲一はわかったと返事をして、サンドイッチをペロリとたいらげた。
そして、温かい味噌汁だけをスープ代わりに飲んだ。
「ねえ?お母さんが毎日遅くなるなら、僕花壇にお水あげたら、よしばあの所にいていい?」
「え?よしばあの家に?」
「ほら!昔、お母さんのお店をしてた時のようにだよ。
よしばあが、みよばあの役に立ちたいんだって。
色々考えて、僕が夕食をよしばあの家で済ませればお母さんが楽でしょ?
お母さんの夕食も作っておくって!
よしばあね。一人で食べるのが味気ないから、そうしてくれると嬉しいんだってさ♪」
静香は義母の気持ちが嬉しかったが、前に戻ると飯田の所に行けなくなるような気がして、断ろうと思った。
「もしもし、よしばあ?」
静香が返事もしていないのに、憲一が義母に電話をしてしまっていた。
「お母さんに変わるね♪」
子機の受話器を憲一から渡され、断りずらくなった静香は
「もしもし?お義母さん?うん。今聞いた。
うん。そうね。わかりました。
ありがとうございます。」
結局、憲一と義母のいいなりになった。
まあ、3週間だものね。
母親が退院したらまた、普通に戻ればいいことだしね。
本当の事を言えば、その方が助かるしね。
静香は義母に甘えることにした。
「じゃあ。お母さん!行ってくるね♪
明日から、病院から帰ったら、よしばあの家に迎えに来てね♪
いってきま~す♪」
憲一は元気良く玄関を飛び出した。
静香は憲一がいなくなり一人になると、静か過ぎる部屋でため息をした。
母親の具合がみるみる悪くなっていくのが目に浮かんだ。
抗がん剤の副作用だから、仕方ないと思ったが…
1日目の夕方には別人のようになっていた母親の姿を目の当たりにして、静香の心も沈んでいた。
今日の母親はどうなったかな?
恐る恐る静香は病室に向かった。
母親の居る病室から一人の女性が出てきた。
「え?美咲?」
「あ!お姉ちゃん!」
美咲の手には医療用のステンレス膿盆を手にしていた。
すぐに母親が吐いたのだとわかった。
「今、洗ってくるね。
お母さんは今、寝てるからお姉ちゃん?
そこの休憩室に居てくれる?」
静香は頷き、休憩室に向かった。
直ぐに美咲は駆けつけてくれた。
「お姉ちゃん。看護師さんがね。
抗がん剤の副作用だけど、お母さんの場合はこの間、癌で手術したばかりで大切な内臓を取り除いたのもあったから…
副作用が他の人より早く出るんだって言ってたの。
守ってくれる消化器が機能してくれないからなんだって…
私ね。お母さんの看病してあげるつもりでいたんだけだ…
どうしても明日から3泊4日のガアムに行くしかない無いの。
担当者が熱を出してしまったのよ。
お姉ちゃんの有給休暇は今週いっぱいよね?」
「ええそうよ。美咲は仕事なんだから仕方ないわ。」
「でもね。来週は一週間休めるの。
ガアムから帰ると、私は3週間働きどうしだから。
休まないと労働基準違反になるからよ。
だから、看病に来るから、お姉ちゃんは心配しないで会社に行ってね。
私もお母さんの役に立ちたいからさ。」
「ありがとう。美咲!」
確かに静香一人の看病では限界があった。
看護師に任せてもいいのだろうが…
肉親とは違うから母親一人だけ特別扱いも出来ないだろうし。
細かい所までは手が届かない。
「昨日も、夜中吐いたみたい。
看護師さんが言ってたの。それでね。尿道にカテーテルを入れたって。
めまいと吐き気でトイレに行けなくなったからって…」
「そうなんだ…」
「私、今から仕事なの。ガアムに行く準備があるから。お姉ちゃんごめんなさい。」
洗った膿盆を静香に渡した。
「朝早く来てくれてありがとう。
それじゃ、来週はお願いね。
仕事帰りは毎日寄るわ。洗濯物があるしね。」
「わかった。」
美咲は静香に手を振ると、そのままエレベーターで降りていった。
姉妹はいいものだ。そういう時は交換出きるが、憲一は一人っ子。
肉親が倒れたら…忙しくなるのは憲一だ。
飯田と出ていってしまったら…
重くのしかかる憲一の肩の荷…
お父さん子。そして、おばあちゃん子。
出ていった母親を憎むだろう。
憲一の事を考えると、一歩も踏み出せない静香だった。
ため息をついて、病室に向かう。
とにかく、今は母親の看病を精一杯やって完治して退院することを祈る静香だった。
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