588. 母親の闘病生活の1日

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588. 母親の闘病生活の1日

検温時間は11時頃だ。 静香がエレベーターで上がると目の前のナースステーションの前を通るのだ。 その2部屋先が母親の居る病室だ。 その母親の病室から看護師の声が聞こえた。 「関根さん?食べなくていい。じゃなくて、食べなきゃ駄目なのよ?」 そんな声が聞こえた。 ああ。母親は吐くから食べたく無いのかなと直ぐに会話の状況が把握できた。 静香は飯田の言葉を思い出し、母親の病気の完治の為に行動することを試みた。 「お母さん?主治医の先生も言ってたじゃない? お母さんは一人じゃないわ。 先生も看護師さんも私も皆で協力して白血病を完治するために頑張りましょう!って思ってるのよ。 必ず完治させます!って先生の言葉もお母さんも聞いてたでしょ? だから…抗がん剤の副作用はお母さんは手術したばかりだから、人一倍辛いのもわかるわ。 でも、食べないと胃に何も入っていないからもっと辛い副作用が出てしまうわ。 お粥だけでも口に入れて欲しい。 お母さんに1日でも早く元気になってもらいたいの! 頑張って食べましょう。ね?お母さん?」 母親は静香の言葉に励まされたのか、目で頷いた。 「そうね。食べなかったら治らないものね…」 母親はスプーンを手にして、お粥を口に入れた。 「関根さん。先生が抗がん剤の薬を変えたので、午後から抗がん剤治療を開始しますね。 今度は辛い吐き気が出ないものを使うので安心してくださいね。」 母親は静かに首を縦に振った。 「静香?お水を買ってきてくれる? それとゼリー。」 静香は頷いて、エレベーターで売店に向かった。 売店でゼリーを買いながら、飯田に言われた事を感謝した。 『尚ちゃんのお陰で私も強くなれたわ。 ありがとう。尚ちゃん…』 人生は全て勝負だ! 静香は一生涯忘れることは無い言葉として、心に刻んだ。 母親はゼリーを食べると 「口の中がさっぱりしたわ。」 そう言うと、午後からの抗がん剤治療に挑んだ。 看護師が安定剤も点滴に入っていると言ってた。 そのせいか、午後からは顔色もよくすやすやと眠っていた。 でも、2本目が終わる頃には顔色も悪くなり 枕元に膿盆を置かなければ、ならなくなった。 「お母さん?大丈夫?」 静香は母親の背中を擦りながら看病した。 「昨日より…まし…」 苦しそうな母親の背中から聞こえた。 これが、3週間続くと看護師が言っていたのを思い出し、静香は来週は妹が看病に来てくれるから来週は仕事に行って、再来週は休みを取ろうと決意したのだった。 それで有給休暇は無くなる。 今年、入社したばかりだからそんなに有給休暇は無かったのだった。 母親の今日の抗がん剤治療は終わったのは夕方6時頃だった。 「お母さん?夕食食べられそう?」 母親は首を横に振る。 気持ち悪いんだもの無理よね? 「静香もそろそろ帰らないと…憲一がお腹すかして待ってるわよ。」 「あ。夕食は作って置いたわ。 それからね。 明日からはよしばあの所で憲一は夕食はごちそうになることにしたのよ。 私も帰ったら憲一を迎えに行くんだけど、夕食用意しておくって言われて… よしばあがそうして欲しいと電話があったの。 お母さんの役に立ちたいんだって。」 「よしさんが? そう…本当にお世話になるわね。 でも、それを聞いて安心したわ。 憲一が不敏で可哀想と思っていたから… 良かった。」 それを聞いたせいか、母親は元気を取り戻し 「頑張って食べるから、夕食持ってきて。」 母親にしては食事も病気との戦いだった。 冷めきったお粥と野菜ジュースを少しだが飲んだ。 「静香。帰っていいわよ。 今日は憲一1人でしょ?ね?」 母親は憲一を心配してそう言った。 「うん。帰るね?お母さん?とりあえず膿盆ここに置くね。」 母親は黙って頷いた。 そして、そういう日々を過ごし一週間が経った。
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