590. 人は人。自分は自分!

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590. 人は人。自分は自分!

「美咲お姉ちゃん♪うわ~。久しぶりだね~♪」 憲一は直ぐに美咲に近づいた。 美咲は憲一の頭にポンと手を置いた。 「憲一?大きくなったわね~。」 「うん!小学校入学した頃は一番まえだったのに、今は後ろから5番目になったんだよ♪」 「エ~!ホント?凄い成長ね!」 「ねえ?美咲おねえちゃん? お母さんって昔から『全くもう!』って 良く言ってたの?」 憲一の質問に美咲は笑ながら答えた。 「そうよ!私と喧嘩するときいつも『全くもう!』って言ってから喧嘩するのよ。 そうねえ。お姉ちゃんの口癖は小学校低学年からじゃないかな(笑)」 美咲は静香の口癖を憲一に教えていた。 「うわ〰️!それじゃお母さんの口癖って25年前位からなんだ〰️。 すごーい!年期が入ってるね〰️!」 「全く…う。」 静香は慌てて自分の口を押さえた。 「ほーら出た!『全くもう!』」 美咲と憲一は顔を見合わせながら笑った。 「ふふ。憲一と美咲は性格が似てるわね。」 「え?みよばあはそう思うの? やったー!美咲お姉ちゃんに似たら頭がいいってことか。」 「あら?お母さんより私に似た方が嬉しいの?」 美咲は憲一の言葉に微笑んだ。 「うん!美咲お姉ちゃんに似てるなら頭もいいって事だよね?」 「憲一?勉強だけは頑張らないと駄目よ? 私は小学生の高学年から毎日家に帰ったら宿題の他に復習していたのよ? 毎日2時間は勉強していたわ。 憲一も今から頑張れば、頭が良くなって将来は私を抜く秀才になるわよ♪」 美咲は憲一の頭を撫でながら言った。 「えー!毎日2時間?僕は無理だよ〰️。 やっぱりお母さん止まりか〰️。」 チラッと静香を見て答えていた。 「憲一?何よ!その言い方!聞き捨てならない言葉ね!」 静香は息子に馬鹿にされて大声を出した。 「静香。ここは病室だよ?」 旦那が静香の肩を軽くおさえた。 「私、飲み物買ってくる!」 静香はスタスタと病室から去った。 バツも悪くなった事もあったが、妹とこれ以上比べられたくなかったのだ。 『どうせ妹は優等生で私は劣等生だわよ!』 ガリ勉の妹を横目に見ながら、静香は商業高校を卒業した。 静香は商売をしたかったから大学なんて行く気はさらさらなかった。 実は妹は医者になりたかったらしい。 でも、父親の商売の収入を聞いて、途中で医学部は諦めて通訳の道に変更したのは知っていた。 父親がくも膜下で急死したのは、妹が大学4年の時だったから卒業することが出来た。 そして、妹はツアーコンダクターになった。 通訳になるには国家試験を合格しなければならないが、その試験も険しかった。 妹はまずはツアコンになって英語を勉強したかったらしい。 『人は人!自分は自分よ!』 そう自分に言い聞かせて売店の前の椅子に腰かけた。 静香が飯田にさっき憲一に言われた言葉をメールした。 『今電話していいか?』 飯田からの返信メールだ。 静香は売店の近くの非常口の側に移動した。 「お母さん止まりって憲一に言われたのか? ハハハ。凄いじゃないか!」 飯田にそう言われて妹の事を知らないから、励まされただけだと思った。 「憲一は将来何になりたかったんだ? 板前だろ?静香と同じ商売の道に行くんだよな?」 「そうだけど…頭の良い悪いを比較されて…」 「俺は頭のよし悪しより、自分がどう生きたいかで人生決まると思うよ? 先生になりたかったら大学に進む! 俺みたいに情報処理を学びたかったら専門学校に進む。 静香は商売したかったから、大学に進まず早く社会に出てお金を貯める事をしたんだ。 俺はそんな静香を尊敬しているんだよ?」 「え?」 初めて聞く飯田の言葉に耳を疑った。 「小さい時から商売したかったから商業に行って勉強して、24歳で店を持ったんだ。 普通の主婦が出来ることではないんだよ? それだけ静香の意思は固かったんだよな? 俺が静香に出会って始めに受けた印象は こんなにほんわかしている性格なのに商売人の顔をしていた事なんだよ。 父親が急死して…きっと店を閉じると思っていたんだ。 それが違っていた。父親の死から何かを学んだんたよな? キリリとした商売人の顔になったんだよ。 俺はこの人と一緒にいたい。 商売のパートナーになりたいってそう思ったんだ。」 「尚ちゃん…」 「憲一は誰の子供だ? そんな静香の背中を見て育ったから飲食店を経営したいって思ったんだろ? まあさ。それプラス頭が良ければいいとは誰も思うけど。 勉強するのは良いことだが、憲一はもうとっくに板前の勉強はしてるだろ?」 「え?」 「ほら。おばあちゃんの為に何がいい食事なのかとか、おばあちゃんに出汁の作り方教えてもらったりとかさ。 自分がしたいことはとことん研究したいんだよな。 だから、昔から‘’好きこそ物の上手なれ‘’って言うだろ? 憲一の照れ隠しだよ。 本当は静香の子供で良かったと感謝してるはずだよ?」 「尚ちゃん…」 「静香?俺を虜にしたんだぞ? 静香はそんじゃそこらの女と違うところが最大の魅力なんだからな! 俺が見初めた女なんだからな! 自信持てよな?」 「尚ちゃん…ありがとう!」 飯田と話した静香の心は曇り空から、青空が顔を出した。
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