592. 介護休暇の代わりに

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592. 介護休暇の代わりに

静香は美咲が母親を看病してくれる一週間は仕事に行った。 『来週から2週間休み取れるかな? 有給休暇は最初の年は7日って聞いていたから… 母親の通院と入院の看病に取ってしまったし、残っていないわね。 これからの休みは欠勤になるのよね? それでもいいわ。母親の方が大事だから!』 静香は所長に相談した。 「親の看病の為の休暇なら5日あるのだが… その条件は入社して半年以上の社員に限られてるんだよ。 岡野さんは入社してまだ4ヶ月だから… ちょっと、本社に聞いてみるよ。」 所長はそう言って本社に電話していた。 そうなんだ…半年たたないと駄目なんだ。 それじゃ欠勤扱い覚悟で進めるしか無いわね! そこに隣の川井が 「岡野さん?もしかして欠勤覚悟の話なの?」 「え?ええ。そうです…母親の抗がん剤治療が結構きつくて… 見ていて可愛そうなくらいで… 個室だし、側にいてあげたいんです。」 「そうなのね。お母さんの抗がん剤治療は朝からなの?」 「いえ。午後からです。午後から2本です。 午前中はシャワーに入らせてもらえる以外はほとんど寝てます。 夜中、抗がん剤治療の副作用で吐いていて…眠れないようで…」 「それじゃ大変ね。わかるわよその気持ち… 父親がそうだったから… あの時は所長や同僚に助けてもらったわね。 だから、その恩返しを岡野さんにしてあげたいわね。」 「え?」 静香は川井が何を言ってるのかわからなかった。 「会社の規定は変わらないわ。 岡野さんは入社半年以内だから介護休暇は無理なのよ。 でも、所長と周りの人の気持ち次第でどうにかなるものなのよ。 岡野さんは有給休暇はもう無いわ。特別有給休暇はお盆休みとお正月休みだからね。 午前中だけ岡野さんは出社できる?」 「え?午前中だけ?」 「そう。お昼前に帰宅していいわよ。 後は私がやっておくから。 それなら2週間午後からお母さんの看病できるわよ。ね?」 「早退って事ですか? 川井さんに悪いですよ! ヘルパーも頼めないんじゃ…」 「大丈夫よ。 岡野さんが来る前に私と相性が悪くてなのか、ヘルパーが来なくなって… 2週間は一人でやっていたから。 午前中、岡野さんが来てくれれば、仕事は70%終わったも同じよ。 皆、昔はそんな風に支え合って会社を切り盛りしてたのよ。 本社にわからなければ構わないんだからね。 何の支障も無いでしょ? 私が大丈夫って言ってるんだから。ね?」 川井の話は心底嬉しかった。 午前中は母親は寝ているから、午後からでも間に合うからだ。 ただ、事務員同士はそれでいいとしても、所長の判断がどうなのか… 川井は立ち上がって、所長の所に向かって行った。 所長と川井は話が終わると静香に近寄って来て 「岡野さん。 会社の規定は入社半年以内だから無理だったが、川井さんの許可が出たから早退って事でいいですか? 2週間までですが…それなら、私も協力できますよ?」 2人は笑顔で静香に話してくれた。 嬉しくて涙が溢れた。 2週間の欠勤はお給料が減るが、早退は本社に届けないからお給料はそのままだ。 生命保険会社にタイムカードは無いから所長の裁量でどうにでもなった時代だった。 「ありがとうございます。」 静香は泣きながら2人に深々とお辞儀をした。 静香はこの一週間は、てきぱきと仕事をした。 そして、5時半ピッタリに退社し母親の病院に向かった毎日だった。 今週は妹の美咲が看病してくれるが、来週から退院するまでの間は静香が会社を早退して看病に来ることを美咲に話した。 「お姉ちゃんの会社はいい会社ね。 添乗員はそうはいかないものね。 ごめんね。お姉ちゃんばかりに負担かけるけど…」 「大丈夫よ。私もお店をやっていたらどうしたらいいか悩んでいたわ… いい会社に就職したと思ってるわ。」 「それとね。お母さんの髪の毛が凄く抜けるの…抗がん剤の副作用ね… お母さんも気にして…帽子を被ってるの。 いつの間に用意したのかしらね?」 母親は用意周到の人だから、転ばぬ先の杖と良く口癖のように言っていたからだわ。 「副作用の事も先生がお母さんに言ってたから、持ってきてあったのね。 髪の毛だけはお母さんの自慢だったものね… それなのに入院前に短くカットしてきたのよ。 知っていたからなのよね? そして、誰にも髪の毛が薄くなった姿を見せたくないのよね。 わかっていても口にしないように私たちはしましょう。 お母さんは強い人だけど、女性だものね。」 美咲も頷いた。
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