596. 月曜日

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596. 月曜日

月曜日が来た。 また、午前中だけの出勤が始まる。 洗濯物は昨日の夜に干したから、半分乾いていた。 とてもいい天気だ。静香は軒下に洗濯物を干した。 「お母さん!宿題忘れちゃった~!」 憲一が半分泣きべその声で静香に言った。 「え?お父さんに言われなかったの? 宿題したのか?って。」 「言われないよ!お父さんはよしばあの家に僕を下ろすと仕事が残ってるって言って、お昼も食べずに千葉に帰っちゃったんだもん! だから、よしばあがお弁当にしてお父さんに持たせてたんだよ。」 全く、宿題を忘れて人のせいにするところが憲一の悪いところだ。 「憲一?お父さんのせいにしないの! 自分がよしばあの所にいて、遊んでいて楽しかったから忘れたんでしょ?」 図星を言われて、憲一は黙りコク。 「何の宿題?」 「ドリル…」 時計を見るとまだ7時前だった。 「憲一?お母さんも今回だけは手伝うからドリル持ってきなさい。」 憲一は頷いて部屋に駆け足で戻って行った。 算数と国語の宿題だった。 静香は答えだけを憲一に教えて、憲一がその通り書いていく。 算数の問題は計算機を使った。 「全く!チョンボも良いところだけど仕方ないわね! 今回だけだからね! 朝ごはん作る時間が無いから、卵かけご飯ね!」 宿題は15分で終った。 ご飯をよそり、卵をかけると憲一と静香は一気に食べた。 2人は7時20分には家を出た。 泣きべそをかいていた憲一の顔は、見事に笑顔に戻って元気良く学校に向かって走っていった。 憲一にも色々不敏な思いをさせてるものね。 母親失格な自分だから、これくらいは仕方ないわね。 いつもなら先生に謝りなさいって言うのだが、昨日の遅くなった理由もあり、叱ることが出来ない静香だった。 いつもの通りの時間に会社に着いた。 会社は午前中の半日で終わる。 誰も静香を責める人はいない。 母親の癌治療から、半年も立たないのにまた、癌が見つかり…それも血液の癌となれば生存率を考えたら… もしかしたら、この入院が最後か、また、再発して母親の寿命がわかるような気がしていたからかも知れない。 抗がん剤治療の大変さを川井には語っていた。 その話が営業所の皆に知れ渡っているのかも知れないと思った。 生命保険会社だからこそ、わかり得ることだったからだ。 今回は再発ではないが… 再発は五分五分と言う… 1年後か、2年後か…5年以内に再発したら治る見込みは無い病気だ。 静香は会社では、黙々と仕事をこなしていた。 1日分を半日で終らせるつもりで! 「岡野さん?そんなに仕事を詰め込まなくても大丈夫よ? 私が皆しておくから。ね?」 「ありがとうございます。でも…今は保険月でこんなに契約の申し込みが出ているのに… 本当に川井さんにおんぶにだっこで申し訳なくて…」 なんだか、朝の憲一の宿題の手伝いの続きなような気がして、泣きべその顔になっていたのかも知れない。 「今日は早めのお昼にしてって、所長に言うわ。 ランチ奢るから、2人で食べましょ!ね?」 川井の気遣いに静香は 「奢るのはこちらですよ! 奢ってくれるならランチ行かないです!」 これ以上、川井に迷惑をかけたくなかったのだ。 「そう。それじゃ、割り勘ね。 少し、仕事の話もしたいから。 病院行くの遅くなるけど…」 「あ。抗がん剤治療は午後1時半くらいからですから大丈夫です。 仕事の話も聞かないと、私はついて行けなくなりますから! よろしくお願いします。」 11時になると川井が所長に昼休みの繰り上げを申し出た。 すぐに許可が降り、2人はランチに向かった。 所長もわかっていたのだった。 静香が張り詰めて仕事をしていることと看病をしていることを。 少し、他人に話を聞いてもらったりすることがストレスには効果的であることも。 いい職場だと静香は涙が出るほどうれしかった。 たまに食べる中華料理のランチを食べることにした。 ここは個室もあって静かに食べる事が出来るからだ。 そして、ランチもお手頃で1000円前後なのに高級イメージの中華料理店なのだ。
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