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597. 川井との会話
川井がウエトレスに「個室で」と一言話していた。
なので2人は和室の個室の部屋に通された。
畳の部屋に丸いテーブルが置いてある。
「日替りランチのレディースコースAとBで。」
川井がウエトレスに注文した。
日替りレディースランチはAとBしかない。
両方選ぶと取り皿も付いて来るので4種類の中華料理が楽しめるのだ。
始めに前菜が出て、4種類の料理が出る。
最後にスープとチャーハン。そして、デザートが杏仁豆腐。
ちょっとした中華料理コースだ。
それが1000円でランチは食べられる。
「ねえ?静香さん?お母さんの容態は落ち着いたの?」
川井が静香に聞いた。
「抗がん剤治療が終わる夕方から嘔吐が酷くなるのは、2週間前から変わりません…
髪の毛が…とうとう坊主になってしまって…
母親の自慢の髪の毛が無くなって…
どんだけショックか…私も髪の毛の話題は触れないようにしてますが…」
「そう…それはショックね。
私の父親も退院の日はそうだったわね。
冬だったから毛糸の帽子をかぶって退院したわ。
でも、2ヶ月で髪の毛は元に戻ったわよ。
だから、お母さんもきっと髪の毛はちゃんと生えてくるから心配ないわよ?
でも、女性の場合はカツラが必要ね。
男性と違ってある程度伸びるまでは時間がかかるから…
コマーシャルのカツラは高いから、安くて人毛のカツラの店を知ってるから紹介するわ。
そういう人の為にあるカツラ店だから。
頭のサイズ測ってくれる?
退院する時に出来ていた方がお母さんもストレスが無いでしょ?」
「ありがとうございます!
助かります。」
静香は川井に相談出来て良かったと思った。
「それから、保険の話だけど11月から新しい商品が出るのよ。
本当は…裏の話をすれば、予定利率をまた下げるからよ!
今の予定利率では保険会社はやっていけないのよ!
だから、転換するのには新しい商品をいかに得か見せかけて、お客様に気に入ってもらえて、新しい商品を買ってもらわないとね。
本当は今の保険の方が貯まるけど…
転換してもらわないと会社が潰れるから…」
静香は耳を疑った。
転換しないと会社が潰れる?
生命保険会社に就職して半年経たない静香には、意味が分からなかった。
「静香さんは頭がクッションマークかしら?
そうね。勉強会は営業マンしかしてないから詳しい事は解らなくて当たり前よね?」
杏仁豆腐を食べながら、川井は静香に説明してくれた。
日本がバブルの時、養老保険って言うのがどこの保険会社でも飛ぶように売れたようだ。
例えば10年お客様から100万預かると満期でほぼ倍になる保険があったのだ。
保険は複利で運用する。積立利率は7.2%
それを10年複利で計算すると本当に100万円が200万円になるのだ!
川井は計算機を出して、静香の目の前で複利計算をたたいて見せてくれた。
「え?本当だ!ぴったり200万!
えー!そんな保険が昔あったのですか?
信じられない〰️!」
1997年頃は養老保険の販売はどこの保険会社も中止になっていた。
予定利率も去年までは4.0%あったみたいだが
今年の11月から2.75%に変更になる。
生命保険会社が足並み揃えて変更になるのだ。
積立利率と予定利率は違う。
養老保険は積立利率を使う。他の商品は予定利率を使うのだ。
1997年頃の積立利率は1.0%位だった。
だから、100万円を10年預けても10万しか増えない。(今はもっと増えないですが…)
積立利率とは銀行などの利息の利率の事だ。
予定利率とは生命保険会社の色んな経費を引いた利率の事なのだ。
川井の説明に静香は本当は半分もわからなかった。
ただ、昔の保険のまま満期を迎えたら、保険会社がやっていけないって事だけはわかった。
今年の決算報告も去年より悪い。
そして、来年はこのままではもっと悪くなる。
長く勤めている社員は外資系会社にうつっているという話も聞いた。
これからは多分外資系保険会社に乗っ取られるかも知れないと、川井は懸念していた。
静香は回りの社員の噂話も耳にしていたからかえって破綻してくれた方が都合も良かった。
都合良く退職出来るし、飯田と一緒になるためにはいつかは辞めるしかなかったからだ。
川井はこの2、3年の間に会社が変わるかも知れないと言った。
「私は来春退職するけど、静香さんはこれからの人だから心配だわ。」
静香はコーヒーを飲みながら
「私は大丈夫です!どんな壁にぶち当たっても越えられますから!(笑)」
「そうね。新人類の静香さんなら大丈夫そうね。」
そう川井は笑いながら静香を駅まで見送ってくれた。
そして、静香に手を振って川井は会社に向かって行った。
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