612. 月夜が綺麗な夜に

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612. 月夜が綺麗な夜に

お風呂の天井を眺めて静香は湯船に浸かっていた。 大きなため息をすると 今から旦那とする行為より、飯田との行為を思い出すと涙が溢れた。 私はいけない女なんだよね。 どっち取らずは2人に悪い…。 だけど、今は離婚は考えられない。 母親の看病を一人で(生活費を一人で抱える事)見るのはできないし、ましてや憲一と母親を置いて今、飯田の胸に飛び込めない。 たとえ、飛び込んだとしても、飯田は飯田で今のちゃんこ屋を辞めなければならない状態にさせられる。 親方もガァムの計画も理想だから、親方の夢まで壊してしまう。 私の行動は全てを狂わせる。 そして、私は後悔をするだろう。そこにはバラ色の人生は待ってはいないから。 いばらの道しか待ってはいないだろうから。 私がもっと遊べる女だったら、こんな事を真剣に考えなくて済んだだろうけど…。 時期がある。だから飯田はその日が来るまで待ってくれると言ってるんだから…。 優柔不断な私に飯田が出した答に、私は納得したけど…。 後4年後と飯田は言ってくれたけど…。 その時期になってもこうやって悩んでいるのではないかとふと思ってしまうのだった。 今度、今度ねって言い訳を作って、私は母親と憲一を置いて行くことなど、きっとできないでいる自分を想像できてしまうのだった。 「あー。もう、今は考えても仕方ないもの!」 そう自分に言い返して、お風呂から出ようとした。 ガラッ! 「おい!静香?大丈夫か?」 お風呂の扉を開けたのは旦那だった。 「え?な、なに?」 「あ。ゴメン。いや、あまりにもお風呂に入っているのが長かったから…。 ほら。いつもはそんなに長くないじゃん。 お風呂場から、声が聞こえたからのぼせたか、風呂場で倒れたかしたのかと。ちょっと心配したよ?」 確かにのぼせる寸前だったかも知れない。 「今、出るよ。そこ閉めてよ!」 「あ。ゴメン!」 旦那は扉を閉めて去っていった。 「んもう。こっちの計画通りにはいかないものね。」 ビール飲んで寝てくれてたら良かったのに。 だから、お風呂もゆっくりしてたのに…。 髪の毛をドライヤーで乾かしていると、旦那が 「水飲んだ方がいいからな。ここに置くよ?」 テーブルの上に水を入れたコップを置いて旦那は部屋に入っていった。 「ありがとう。」 とりあえず、優しい旦那にお礼を言った。 もう!そんなに優しくしないでよ! 営みを拒否できないじゃない! 最終手段の、のぼせて布団に横になって眠るふりをするのもできなくなったわ。 静香は旦那が入れてくれた水を一気に飲んだ。 「あ。美味しい。やっぱりのぼせていたかもね。」 静香が寝室に、入ると旦那は寝ていた。 え?あれほど待っていたのに? まあ、いいや。ホッとした静香は起こさないように静かに布団に潜った。 すると、旦那の手が静香の布団に忍び込む。 やっぱり狸寝入りだった。 「待ちくたびれて寝ちゃったけど、下半身が起きてて」 そんな事を言いながら、静香の布団に潜り込んだ。 我慢すれば直ぐに終わる。 静香はそう思って旦那が背後から抱きしめてくるのを突き放さずに、受け入れた。 「静香…。少しやつれたか? ウエストが細くなったね。 静香は毎日お母さんの病院に行ってたんだろ? 静香ばかりに苦労かけて、悪かったな。」 いつも言われた事がなかった旦那の言葉にチクリと胸が痛む。 「自分の親だもの。苦労なんてしてないわよ。 よっちゃんはちゃんと働いて私達に仕送りしてくれてるじゃない。 家族なんだから突然の事よ? 変なこと言わないで。」 旦那は静香の背中にキスをした。 そこは飯田がしてくれた場所。 駄目よ背中は! くるりと静香は向きを変えた。 あ!しまった! 旦那は静香の唇を奪う。 静香はされるがままだ。 「今日は早漏なんて言わせないからな!」 耳たぶから首筋へ。そして乳房とキスを落としていく。 やはり、旦那でも気持ちがいい。 喘ぎ声を思わず発する静香だった。 旦那は飯田以上に静香の感じる所を知っているのだ。 ごめんなさい。尚ちゃん…。 心の中でつぶやく静香。 飯田とはまるで違う旦那のセックスも、感じないとは言えない。 物足りないけど、なぜか今日はいつもより丁寧な旦那のセックスに静香は感じているのだった。 月夜が綺麗な夜だった。
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