続きは鍵を閉めてから

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   …剛としたことは、夢じゃない。  だけど夢だと思って早く忘れるべきだと思えば思うほど心が焦れ、やがてそれは仕事にも支障を来すようになっていった。 「申し訳ありませんでした」 「人間誰しもミスはするよ? だから責めている訳じゃあないんだけど…柏木くんにしては、珍しい凡ミスをしたもんだと思ってね」  マーケティング資料の一部を欠いた資料を作成したことに気がついたのは、会議が始まる二十分前。  慌てふためきながらも資料を抽出し、何とか間に挟み込むことで会議は円滑に終えられたが、それでも常日頃どんな小さな仕事でもミスしたことがない淳也にしては、あり得ないミスだった。 「済みません…」 「まぁま。 柏木さんも、おれたちと同じ人間だったってことですよ」  会社にいる間は緩んだ表情を見せない淳也は、呼び出された部長のディスク前で固い顔をして肩を落としていたが、それを見ていた同僚がそんな慰めの言葉を淳也の背中に向け、重くなりかけたその場の空気を和ませた。 .
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