続きは鍵を閉めてから

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   剛と向き合うことで欲を覚え、飢える肉体に極上の愛撫をくれた剛と離れた途端…淳也の頭が突然現実に立ち返り、見えたその世界がリアルなのだと知った体から、一気に熱を奪って行く。  ──剛と抱き合えたことは、紛れもない事実。  久しく恋人と呼べる人がいなかった淳也が、本気で剛を好きになってしまったことも、事実だ。  だけどそんな熱く燃える心とは裏腹に、剛は淳也とまた合う約束の一つも交わさないまま、離れて行ったという現実に気づかされ…愕然とする。  …一夜限りの、情事。  夢ではない証拠に、淳也の腔孔には昨夜の熱い滾りを受け入れた余韻を引きずるような疼きを感じる。  何度となく交わしたキスの感触だって…すぐ思い出せるのに…  なのに。  剛は今朝、次会う約束もしないまま、淳也のマンションを飛び出して行ってしまった。 (知らない…)  剛が今、どこに住んでいるのかも、知らない。  同じ会社に勤めていても部署が全く違うせいで、その連絡先さえ、知らない。 「嘘だろ…?」  あれほど激しく、濃密に抱き合ったはずなのに──…  その感触だけが残された肉体の所以を見失った淳也は、慌ただしい朝の雑踏が響くただ中で、  呆然と一人、立ち尽くすほか、なかった───… .
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