続きは鍵を閉めてから

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   淳也の思った通り、とでも言うべきなのか。  あの日以降、剛から淳也に対する接触及び連絡等、一切なかった。  あの時感じた、とろりと溶けるほど発熱し合う行為など夢物語でした、と言わんばかりの冷たい態度に、淳也は何一つ言えず、遠巻きに剛を見る他なかった。  …たまに社内で見かける剛は、平素と変わらぬ笑顔を浮かべ、同僚と意見を交わしながら慌ただしく視界から姿を消して行く。  時には厳しい顔つき、時には冗談を飛ばしながらも、真面目に仕事をこなしているようだった。  それに…  『真昼の情事』が原因で彼女から追い出された割には、着ている物が日替わりの変化を淳也に見せ、今剛は淳也が手を伸べなくとも暮らして行けていることを、如実に教えてくれた。 (ちゃんと食事ができて、暮らせる場所を…確保、したんだ)  そう認識した胸が、ズキリと痛んだ。 .
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