続きは鍵を閉めてから

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  (駄目だ)  きっと剛は、いつも通りのつもりで淳也に微笑みかけているだけだろう。  だけどあの日のことを『一夜限り』と捉えられない淳也にとって、剛の何気ない笑顔は眩しすぎて、微笑み返すことも、手を上げ応えることも…できなかった。  ──元々同僚間での付き合いを密にするタイプではない淳也は、人の話に交わり会話をするのを苦手だと思っている。  それは自分の性癖を意識していることにも原因はあるのだが、だからといって嫌がる態度をあからさまに出しているつもりもない。  しかし──あの日以降、淳也は剛に対する深い想いに囚われ、周囲に気を使わせてしまうほどの、ひんやりとした空気を纏っていた。  はじめのうちは、どうした、何があったと声をかけてくれていた同僚も、淳也の頑なな態度を目にするうちに口を閉ざし、遠巻きに淳也を眺め、ひそひそとあらぬ噂話をするようになった。  そうなってしまったのも、全部自分のせい。  不愉快な思いをさせてしまったのも全部自分のせいだと自覚しているからこそ、淳也は余計に何も言えなくなり、黙りを決め込むほかなかった。 .
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