続きは鍵を閉めてから

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   どんな緊急事態の際でも、決して慌てず騒がず、淡々と仕事をこなす淳也。  その淳也がこれほどまで取り乱しているのだ、今は問い糺すのではなく、これ以上淳也の気持ちが沈んでしまわないようにするのが同じチームで仕事をしている仲間としてすべきこと、とアイコンタクトを交わし合った同僚たちは、 「さっ、次のマーケティング資料の骨子案、考えましょう!」  と言って、真っ白な顔色をして立ち尽くす淳也の背中を押し、部長のディスク前から引き剥がした。 「ごめん…」  皆の気遣いが嬉しくて、もっと伝えたい言葉があるのに…涙が喉に支えて、言葉にならない。 「いいんですよ」 「ドンマイ、ドンマイ」  自分の席に戻り、肩を落とす淳也へそれぞれ慰めの言葉をかけた同僚たちは、三々五々、散り散りになって去って行った。 (…なってない)  惚れやすく、恋してしまうとその人に心を囚われ、夢中になってしまう質の自分。  だからなるべく他人と関わらないよう距離を置き、同じ職場では恋人を作らないよう心がけていたはず、だったのに。 .
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