続きは鍵を閉めてから

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   期待するだけ無駄。 好きになっても、傷つくのは…自分一人だけ。  だから、こうなることは分かっていたし、心のどこかでこうなるだろうと、思ってもいた。  ──…だから…  今の自分を支える資本でもある仕事で、支障を来してはならないのだ。  それに、就いている仕事には遣り甲斐を感じている。  職場の雰囲気だって悪くないのだから、しっかりしなくては駄目だ。  …誰かを好きになるのは、淳也の勝手だ。  たった一度きりの情事を忘れられず、その姿を目で追うのも、好きにすればいいと思う。  想う相手が、決して淳也を振り向くことはなくても──…  片想いの気持ちに溺れるのは本当に勝手だが、その日常に不協和音を生じさせることだけは、してはいけないのだと…弱る気持ちに寄り添おうとする襟を正し、背筋を伸ばした。 (抱いて貰えただけ、良かったと思えばいい)  拒絶されなかったばかりか、ただ自分の欲求を満たすためにしどけない身体を晒け出した淳也を、剛は優しく、丹念に愛してくれたのだから。 .
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