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その思いでだけで、生きて行ける。
幸せだと感じたあのひとときの記憶だけあれば、きっといつか、剛のことを美しい過去の恋だったと、言える時が来るだろう……
──…そんな風に現状を受け止め、たびたび目が合う剛の晴れやかな笑顔を見るのが辛いと感じる以外、ようやく日々を穏やかに暮らせるようになり始めた頃。
「ウソでしょっ」
たまたま通りかかった給湯室の中から、女の子たちが声のボリュームを落とすことさえ忘れたテンションでおしゃべりする高い音を、鼓膜の芯が捉えた。
…給湯室は、女の子たちの『秘密の花園』だ。
二人以上の女性が給湯室にいる時は、どんな階級を持とうとも男子禁制だった、と苦笑いが零れるのと同時に思い出した淳也は、コーヒーカップを手にその場を離れようと踵を返した。
と、その背中を追いかけるような言葉の中に、思いもかけない人の名前があったことに気づいた足がぴたりと止まり、動けなくなる。
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